セッション3 人狩

「ふうん、わたしの顔を知っているんだあ」


 美少女――シロワニがふわりと笑う。その微笑は悪魔的なまでに美しく、血に塗れた姿でさえ見惚れてしまう程だ。


「なんでここにいるかって? 良いよ、教えてあげる。――人狩りだよ」

「ひ、人狩り……?」

「うん。要は暇潰しだね。国内で人を殺せば問題になるけど、国外の、しかも犯罪者だったら誰も文句は言わないでしょ? そう思ってここまで来たんだよ。偉いでしょ?」

「なっ……!」


 ころころと鈴の音のような声で笑うシロワニ。一方のお嬢はシロワニのあんまりな理由に絶句していた。しかし、すぐにその表情は怒りへと変わり、シロワニへの敵意を顕わにした。


「ふざっけんじゃねえ!」


 お嬢が懐から一枚の紙を取り出す。細長いそれは、神社とかで見た札に似ていた。


「ふうん。あなた、符術師なんだね」

「喰らいやがれ! 『中級疾風魔術ダウンバースト』!」


 札から強烈な風圧が溢れ、荒れ狂いながらシロワニを叩く。余波が馬車の屋根を吹き飛ばし、青空を見せた。常人なら全身の骨が砕ける凄まじい爆風だ。だが、


「……うーん、大した威力じゃないなあ。あなた、本業の符術師じゃないでしょ。という事は、その符も盗品かな」

「何……だと……!」


 シロワニは無傷だった。服や髪などは多少乱れていたが、皮膚には傷一つ付いていなかった。


「ひ、ひいっ!」

「逃げろ、化け物だ!」

「……つまんない。これ以上、時間を掛けても真新しいものは見れないかな。いいや――死んじゃえ」


上級流水魔術メイルシュトローム』とシロワニが呟く。虚空から飛び出した水流がミキサーの如く円を描き、盗掘屋達を纏めて抉り抜いた。水流は最後にお嬢の胸を貫き、消えた。心臓を穿たれたお嬢は無様に倒れ、床を舐める。馬車の床が鮮血で染まっていく。


「ふうん、面白いものがあるね」


 ふと、シロワニと僕の目が合った。

 彼女は僕の所まで来ると、身を屈めて顔を覗き込んで来た。


「未だに意思の宿るミイラかあ。不思議。どんな魔術によるものなんだろう。興味深いなあ。持ち帰って調べてみようかな。……ううん、皇帝おとうさまに見つかるとまた勝手に城を抜け出した事がバレちゃうか」


 シロワニはふむと頷くと、


「昔、水を掛けたミイラが蘇ったって話を聞いた事があったっけ。とはいえ、あれは妄想の話だし、ただの水じゃ蘇生しないか。どれ」


 僕を持ち上げ、お嬢の近くに置いた。お嬢が絶賛制作中の血の海の上にだ。

 ちょっ、お前。血が、血が僕に浸み込んで来るんですけど、ちょっと。


「昔から血はまじないを起こすとされている。あるいは奇跡も起きるかもね?」

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