第29話 勝負
三連休が明けて一学期最後の週がやってきた。
もしかするとこの連休の間に自己解決しているかもと考えたがそんなこともなく。
クラスの主要人物と言っても過言でない二人のただならぬ雰囲気に、いつメンは当然クラスメイトたちもどこか気まずそうにしている。
いち早く状況について理解したいのだろう。担任が教壇に立ち軽い連絡事項を話している間に、丹生から次々とメッセージが送られてくる。ちらりと丹生を見やると、いかにも興味なさげに担任のほうを向ていた。
ノールック片手でよくこんな爆速でメッセージを書けるな……。
机の中に忍ばせたスマホの、次々とメッセージが届くトーク画面に俺は思わず苦笑した。
「マサっち、ちょっといい?」
HRが終わり担任が教室が出たあと、すぐに丹生が俺のもとにやって来た。俺はうなずいて丹生と一緒に廊下へ出る。
階段の踊り場まで移動すると辺りに人がいないことを確認してから「それで」と丹生が切り出した。
「マサっちはなにか心当たりあるんでしょ」
「断言するんだな」
「うん。だってマサっちが一番二人の様子を気にしてたもん」
よく見てらっしゃる。いや、思えば俺も少し態度が露骨だったかもしれないが。
まあ別に勘づかれて困ることはない。特に丹生は平井の恋心にも気づいているし、事前に説明することも少ないからな。
ただまあ、打ち明けるのに少し勇気はいるが。
ふう、と息を吐いてから俺は二人の様子の現況が俺であることと、先週金曜の出来事を説明した。
「……なるほどねぇ」
丹生は腕を組んで静かに唸る。
「なんか先月からマサっちとスズっち……というかマサっちのほうが少しよそよそしかったのはそれが原因だったか。というかスズっち隠すの上手すぎ! 全然気づかなかったよ」
「待ってくれ、俺ってそんなにわかりやすいのか?」
丹生はきょとんとしてからさも当然のように「そうだけど?」とうなずく。
「あ、わかりやすいってのは誇張したけど、なんというか雰囲気がちょっと違うときがあるんだよね。いつもどおり振舞ってるから気にしないほうがいいのかなって思って触れないでいたけど」
「……」
もしかして俺、実はそんな優等生ぽくなかった?
そんな不安がじんわりと込み上げてくる。
いや、察しのいい丹生だから気づいただけという説は大いにある……が、他に気づいていた人がいないとも言い切れない。
少なくとも
……いや、これ以上考えたって時間のムダだ。どちらにせよ俺の悪評が出回ったり勘ぐるような噂が囁かれたりしていないのだから俺に実害はない。
「話は戻るけど、自分が元凶だって言う割りにマサっちはあまり思いつめてなさそうだね?」
「……まあな」
由夢のおかげで気持ちの整理をすることができた。そしてしたいこともちゃんと見えている。
だから今の俺に迷いはない。
丹生は俺の顔をまじまじと見つめてからはあと息を吐いた。
「その様子だと、マサっちがどうにかしてくれるんだよね?」
「ああ。責任持ってしっかり二人と仲直りしてくるよ」
胸を張って宣言すると、丹生はにっと笑ってから俺の肩をポンと叩いた。
「うん。じゃあ任せた!」
◇ ◇ ◇
昼休み。俺は平井と谷山にLINEを送ってから教室を出た。途中テニス部の知人を訪ねてから向かったのはテニスコートだ。
誰もいないグラウンドでひたすら待っていると、しばらくして平井と谷山がやって来た。
よかった、まずは第一関門突破だ。
二人の性格上無視するとは思えなかったが、今の心情を考慮すると俺の呼び出しに応じてくれない可能性も充分にはあったからな。
二人は複雑そうな表情を浮かべて、あまり俺と目を合わせようとしない。
仕方ない。今朝の様子でまだ気持ちが整理できていないのはわかっていたからな。けど、二学期まで待ってられないからこの場で決着してみせる。
ダメなら明日も明後日も、一学期が終わるまで粘ってやるつもりだ。
ふう、と息を吐いてから俺は二人に向き合う。
「来てくれてありがとう」
二人の返事はまたず、俺は平井をまっすぐ見つめる。
「それじゃやろうぜ、
俺は知人から借りてきたテニスラケットを出してコートを親指で指す。平は無言でうなずくと俺に続いてコートに入った。
だから俺はテニスで勝負をすることにした。他のなによりも平井が得意なテニスで勝ってみせれば俺の本気が平井だけじゃなく谷山にも伝わるだろうと考えて。
「3ゲーム先取で、俺が勝ったら話を聞いてもらう。それでいいか?」
ウォーミングアップがてら軽くラリーをしながら平井に提案する。
テニスで負かすと決めたが、昼休みというそう長くない時間であることと、二人が昼食を摂る時間を考慮してあまり長い試合はできない。それに1セットじゃどれだけ根気があっても平井には勝てないので、ワンチャンで覆せるゲーム数を選択した。
それでも素人と全中ベスト8とでは、普通に戦えばストレート負けするだろうが。
「いや、オレが3ゲーム、
しかし俺の思惑に反して平井から俺に有利な条件を出される。
「いいのか?」
「ああ。だって雅也は練習に付き合ってくれるけど素人には違いないだろ。なのに同じゲーム数ってのはフェアじゃない」
「なるほどな」
さすがはスポーツマンと言うべきか。たしかに、素人の俺が本気の平井から1ゲームでも取るのは容易ではない。
せっかくの平井からの申し出だ。ここは平井のスポーツマンシップに甘えるとしよう。
「わかった、それでやろう」
「けど雅也、あまり気を抜くなよ? 練習のときと同じ気持ちできたらすぐ3ゲーム取っちまうからな」
「わかってるよ。直正の本気はよく知ってる」
ゲーム練の平井の姿を見ているし、大会だって観戦したことがある。いつものラリーの数段ギアが違うのは重々承知している。
ただあくまで観客として見ているだけなので、こうして対面すればまた感覚も違うだろう。
すっかり体も温まってきて時間もいい頃合いなのでラリーを終える。
「サーブはどっちからにする?」
「直正からで頼むよ」
「……いいのか?」
基本的にテニスはサーブをするほうが有利だ。
互いの勝利条件から考えると、平井は3ゲームを連取する必要がある。であれば俺が先にサーブを選べば3ゲーム中2ゲーム有利なサービスゲームで戦うことができる。
しかし平井に先手を譲れば俺は1ゲームしかサービスゲームで戦えない。
そのことをわかっての反応だろう。
「ああ。言っておくが、俺なりに勝つための作戦だからな」
「わかってるって。意図は読めないけど、雅也のことだからオレには想像つかない案があるんだろ」
「ああ。せいぜい俺に負かされるのを楽しみにしとけ」
そう言って笑ってみせると、平井もわずかに口角を上げた。
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あとがき
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