第17話 昼食
「そういえば
月曜日の昼休み。彼女と昼食を摂る約束をしていた
「どうって言われてもなあ。あ、土曜に一緒にジョギングしたな。でも急にどうしたんだ?」
「いや? なんとなく気になってなぁ」
平井はそわそわとしながら明後日の方向を見てそう言った。これはあれだ、なにか誤魔化してるときの仕草だ。
平井は相当わかりやすい性格をしているが、こういったときの癖も清々しいほどにわかりやすい。
周りも気づいているようで、
「なーくん、どうせ『早く相談してこないかなあ』とか考えてるんでしょ」
「なっ⁉」
平井は明らかに図星と言わんばかりのリアクションを見せる。危うく箸を落としそうになっていた。
「いつもなーくんが頼ってばっかりだったから、雅也くんに頼られて嬉しかったんだよね?」
「ほお、平っちもかわいいトコロがありますなあ?」
「くわー! 恥ずかしいからそんな目で見るなあ! あとスズはオレの考えを代弁するなー!」
平井は両手で頭を抱えて身悶えする。その行動にまた笑いが起こった。
しかしなるほど、そういうことか。正直その場しのぎで言ったもんだから、特に相談するようなことはないんだよなあ。特に、平井たちは
ただ、俺が『なにかあったら相談させてくれ』と言ったときの平井はとても嬉しそうでやる気に満ちていた。そのやる気を無碍に扱うのは心苦しい。
しかし現状、平井を頼るような困りごとは特にない。強いて挙げるなら最近見せるようになった嗜虐性は悩ましいが、これはこれで相談できるものではない。それに反応に困りはするものの、ああして由夢が自分を見せるようになってくれたのは打ち解けてきたように思えて悪くないのだ。
「今のところ仲良くやれてるからなあ。ま、なにかあればホントに相談するから。そう、いわば
「おお、切り札! いいなそれ!」
「……でもそういう扱いの切り札って、出番がなかったりすぐに解決したりしない?」
「未来はいつも未定だからな」
「んッ」
ふと、いつだったかに聴いた歌詞が浮かび、平井には伝わらないだろうと思いながら引用すると案の定佐伯がむせた。
平井はなんのことやらと言わんばかりにぽかんとしていて、谷山と
そうだよな、この歌詞は佐伯がおすすめしてくれた曲のだよな。正直それなりに前のことだったからほとんど覚えていないけど、いい曲だなと思った記憶はある。
「ま、まあいいや。オレは雅也が頼ってくれるのを粘り強く待ってるぜ。それが数少ないオレの特技だからな!」
「平っち、それテニスの話でしょ」
「そうだけど! けど、テニスでもできるなら他のことでもできる! たぶん!」
「わあ、平っちらしい理論だね」
「でも、なーくん根気強く下の子の面倒見れてたし、あながち嘘じゃないかもよ?」
「おお、スズっちが言うなら信ぴょう性あるわ」
「なんで? もっとオレを信用してくれてもいいんだぞ?」
「えー。でも平っちだからなー」
丹生の返答に平井は「なんでぇ⁉」と困惑の声を上げる。一見すると平井の扱いが不憫に思えるが、なんというか丹生の言わんとすることも理解できる。
何度、平井に勉強を教えてバッチリだぜと言われたことか。そのあとの結果は想像どおりだ。
まあ、べつにそういうところを悪いとは思っていない。むしろそういう平井を見ないと返って心配になるだろう。
なんて考えていると、ふとひとりの女子生徒が近づいてくるのが見える。
「
どうやら谷山の知り合いのようで、谷山は椅子から立つと「どうしたのー?」と駆け寄る。
「いやさー、実はお願いごとがあってねー」
女子生徒は声を潜め、こそこそと谷山に耳打ちする。少しの間みんなで何事だろうと見守っていると、話が終わったようで「それじゃ、ごめんけどよろしくねー」と言って女子生徒は去っていった。
「なんだったの?」
席に戻ってきた谷山に丹生が尋ねる。
「んー、なんていうか、クラスの男の子に私を紹介してくれってお願いされたみたい。それで会ってあげてって」
谷山は苦笑しながら答えた。
「へえ。その男子は知ってる相手なの?」
「名前を聞いたけど、覚えはないかなあ」
「わお。面識のない相手からも声がかかるなんて、やっぱりスズっち人気だねー」
谷山は可愛らしい容姿と朗らかな雰囲気、そして誰にでも隔てなく優しいことからクラスの男子から高い人気を得ている。しかしその人気はクラスの、そして面識の壁も破ってしまうほどのようだ。
しかし、告白か。普段は気にしないようにしているが、こうもタイミングが重なるとつい体が強張る。谷山はどう思っているのだろうか。
「それで、そのお話はどうするんですか?」
「とりあえず会ってはみるかな。たぶん気持ちには応えられないけどね」
「えー? じゃあなんで行くの?」
「さっきの子がその男子にいろいろ恩があるみだいだし、それに断るにしてもちゃんと相手の気持ちは受け止めてあげたいから」
ほんの一瞬、谷山の視線がこちらを向いた。その視線にどんな意図が込められているのかは、察することはできなかった。
「スズっちいい子! あたしが撫でてあげよう」
「えー? べつにいいのに」
谷山は苦笑しながらも丹生のハグを受け入れた。その微笑ましい光景に頬が緩む。
内容的に会話に入りづらかったのか無言になっていた平井も、どこかホッとしたように表情を弛緩させていた。
「しっかし、このタイミングってことは夏休み意識したんだろうなあ。気持ちはわかるけど、それならもっと早く動けって思わない? ねえマサっち」
「俺に同意を求められてもな……」
客観視すれば理解はできるものの、俺自身は色恋沙汰に興味を持ったことがないのでピンとこない。
まあ、いずれ行動を起こすなら今のほうが夏休みを無駄にしなくて済むという考えは察せられる。しかし今からたった二週間でそこまで仲を進展させるのは至難だろう。
丹生の言うとおり、もっと計画性を持って動いたほうがまだ可能性はあるだろうに。いや、そんな計画性なんてなんの判断基準にもならないんだが。
なんて考えていると予鈴が鳴った。思えばみんな昼食を食べ終えているし、けっこう長居していたようだ。
「それじゃ教室に戻るか」
「次数学だっけ? また抜き打ちで小テストあるかな?」
「なに⁉ 小テストはもう嫌だああああ!」
「いや、まだ今の単元終わってないだろ」
「もっとちゃんと授業聞いてたら小テストくらい問題ないと思うんだけどなあ。ね、
「私は、復習しておかないとちょっと不安ですけど」
だよな、わかる。
==========
あとがき
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