第3話 佐々木雅也といつメン

「くゎ……」


 人の姿が少ない朝の通学路で、情けないあくびが口から漏れる。


 結局、昨日は昼寝分を取り返すためにいつもより少し遅い就寝となった。といっても三十分という本当に少しで、まったく時間が釣り合っていないのだが、それ以上は起床に差し支えるので自重した。


 もう妨害行為がなければいいのだが……由夢ゆめのあの様子を見るからに、またなにかしら行動を起こしてきそうだ。


 心配してくれる気持ちはありがたいが、俺には俺の事情があるのだからもう少しこっちの気持ちを尊重してほしい。


 なんてグチグチ考えいるうちに学校が近くなり、生徒の姿が増えていく。


 ちなみに、由夢は同じ高校ではないため一緒に登校するといったことはない。


 昨日の問答を振り替えると、一緒じゃなくてよかった気がする。いや、由夢の性格だと外では干渉してこないか?


 ああくそ、昨日からずっと由夢のことを考えてしまう。思考を切り替えろ。もう生徒もいるんだぞ。


 深く吸った息をふぅとはいて、気持ちを優等生モードに切り替えた。



   ◇   ◇   ◇



「おはよー」


 教室に入ると一斉に何人からか挨拶が飛んできた。


「あぁ、おはよう」


 挨拶を返しながら席に荷物を置くと、自然と俺の席にいつメンが集まり賑やかな談笑が再開される。


「ふっふっふっ……見たまえ、昨日彼女と放課後デートしてきたときの写真だ!」


 彼女とスタバにいる写真をハイテンションで面々に見せるのは根谷ねや幸助こうすけ。先日ついに告白を成功させ彼女持ちになったメガネ系男子だ。


 去年初めて交流したときはもさっとしていた髪も、今は彼女を意識して整えられ軽くセットされている。


「根谷っち、相変わらず写真ヘタだねぇ。ちゃんとキレイな写真撮れないとカノジョちゃんに愛想尽かされるよ?」


 根谷が見せびらかす写真に対して、流行好きの丹生にう叶多かなたが彼女らしい指摘をする。


 それに対し「たしかに」という共感の声が上がり、根谷は「見てほしいのはそこじゃねー!」と憤慨した。いつもの光景だ。


 ちなみに実は俺も写真を撮るのは苦手なので、心のなかで根谷と肩を組んでいたりする。


「というか、そんな簡単に愛想尽かされるか!」


「えー、どうかな? 女の子は常に可愛く見られたいんだよ。だからそんなピンボケした写真ばっかだと悲しんじゃうよ。ね、スミちゃん」


「ぇ? コホン……まぁたしかに、せっかく撮られるならキレイに写っていたほうが嬉しいわね」


 自分に振られるとは思っていなかったのか、佐伯さえき愛純あすみは一瞬動揺しながらもうなずいてみせる。その所作は学校一の美少女と呼ばれるだけあって、急な繕いでも様にないっていた。


「くぅ……! 助けてくれ雅也まさや! 女子たちが正論で俺をいじめてくる……!」


「まぁまぁ、落ち着けって。叶多はわからないけど、愛純にキレイな写真の方が嬉しいって意見を言っただけだろ」


「ちょっとー⁉ あたしはいじめてるみたいな言い方やめてよマサっち!」


 フォロー兼イジりをすると、丹生はバシバシと力強く肩を叩いて抗議してくる。


 力加減をしてくれているとは思うが、それなりの衝撃が伝わってくる。さすが元運動部、少し痛い。


「まったく……。ま、指摘するだけじゃ良くないし、昼休みにでもキレイな写真の撮り方教えてるよ根谷っち」


「ごめん、昼は彼女と一緒に食べる約束してるんだ」


「こんっのぉ! 友達の善意をー! よかったねっ!」


 丹生はキレ気味っぽく賛辞を贈る。俺のときのように肩を叩いたりはしていない。彼女持ちにはボディタッチは控えるスタンスだとか。能天気に見えて思慮深いタイプである。


「みんな、おはよう。今日も賑やかだね~」


 主に丹生が賑やかに騒いでいると、すっかり聞き慣れた声が聞こえてくる。


「おはよう、涼香すずか


「うん、おはよう雅也くん」


 やってきたのはいつメンのひとりである谷山たにやま涼香。男子人気が高く、評判では茶髪がチャームポイント。そして昨日、俺がフった女の子。


 他のメンバーが各々挨拶を返し雑談を繰り広げるなか、誰にも悟られないよう彼女の様子を窺う。


 特におかしい様子はない。いつもどおり、友だちとしての立ち振る舞いだ。それはもう、告白なんてなかったような。


 彼女と親しい人物にもこれといった変化はないし、俺に向けられる視線も特に変わらない。


 ほんの少しだけ、彼女が親しい相手に昨日のことを話してはないかと考えたが、そういったことはなさそうだ。


「雅也くん、どうかした?」


 周囲を観察しながらあれこれ考えていると谷山に声をかけられる。


「いやなに、そろそろアイツも来る時間かなって」


 俺は教室の前方にある時計に目を向けてそう答える。そろそろ朝のHRが始まる時間だ。



「――っと、今日もセーフ!」



 ちょうどそのタイミングで一人の男子生徒が教室に入ってきた。騒々しい登場の仕方だが、クラスメイトたちはいつものことかと気

にする様子はない。


「おっはよー! 今日もオレがビリかあ」


 あまり時間がないというのに、カバンも置かずこちらにやってくる彼がいつメンの最後のひとり平井ひらい直正なおまさだ。


「ビリを残念がるなら、その寝坊寸前の生活リズムをどうにかしようぜ」


「ぐぬ……しかたねえだろ? 夜しっかり寝ないと体動かないんだからな。それにちびっ子の面倒もあるし」


 根谷の指摘に苦い顔をしながら平井はそう弁明する。


「ちびっ子って、もう小三になるからそんなに小さくないんじゃない?」


 そう返すのは谷山。ふたりは幼馴染みで、家ぐるみで仲がいいのだとか。


「オレにとっちゃいつまで経ってもかわいいちびっ子だ」


「感動系のドラマの親みたいなこと言うね平っち。そういえば下の子って性別どうだっけ?」


「弟と妹。二人ともオレに似て運動が大好きなんだぜ。今度一緒にテニスする予定なんだ」


「出たテニス馬鹿。平っち何気にテニス上手いんだから手加減しなよ?」


「というか、おふたりが似てるのは正直さんじゃなくてご両親では……?」


 佐伯のツッコミに平井は「たしかに!」と誰よりも納得した様子を見せる。


 そんなタイミングでチャイムがなり、担任が入ってくるとみんなは各々の席へ戻っていく。 


 先ほどまでとは打って変わって粛々とした雰囲気のHR。担任は淡々と連絡事項を伝えるが、内容はあまり耳に入らなかった。


 妹。平井が発したその言葉のせいで、妙に由夢の姿がチラつく。


 タイミング見て、もう一回しっかり由夢と話したほうがよさそうだな……。


 なんて考えながら、俺はぼんやりと担任の話に耳を傾けた。






==========

あとがき


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