―ージュウナナーー
第39話
出禁となったケーシ君の影にリリアは今も怯えていて、引きこもりから抜け出せないでいた。
「ムリムリムリムリムリ……、もう怖い、怖い……どうしよう、どうしよう」
部屋で引きこもり、震えた声で呪文のようにひたすら呟き続けるリリア。
ケーシ君のストーカー行為は徐々に酷く、劣悪になっていたのだ。
リリアの自宅宛てに恋文を何通も送ったり、わざわざ自宅までやってきてリリアの状況を監視しようとするまでになった。
リリアはまだろりぃたいむの経営の事が頭にあり、警察に頼ろうにも言えずにいて、ひたすら耐えているだけであった。
もう、ろりぃたいむは破堤寸前なのに。
リリアの元にみかこの知らせが送られてきたのはみかこが病院に運ばれて直ぐの事であった。
キイチはリリアに出来れば見舞いに行ってあげて、と送ったのだが、リリアは迷っているだけで、いまだに部屋から出られずにいた。
ジュンと萌香もリリアの顔を一目見て安心したかったのだが、今の状況だと厳しいのだろう。
そして、みかこが目を覚ましたのは、ジュンと萌香が見舞いに行ってから四日後の事であった。
突然キイチから連絡があり、二人は病院でキイチと合流し、みかこのいる病室へ入ったのだ。
そこには引きこもっていたはずのリリアがいた。
どうやら、目を覚ましたみかこと真っ先に話をしたかったようだ。
「リリアさんじゃないですか、来ていたんですね」
萌香がリリアを見て驚きの顔をする。
「うん。みかこちゃん目を覚ましたって聞いたから、どうしても急いできちゃった」
元々華奢なリリアの身体がより結構痩せ細っていた。
ベッドの横に立つリリア。ベッドには薄っすら目を開いたみかこの姿があった。
「リリアちゃん……、それに、皆も……、アレ……、おんぷちゃんとあおいちゃんがいないよ……」
微かな声を出すみかこだが、まだ意識は朦朧としているようだ。
「おんぷさんと、あおいさんは……」
ジュンはおんぷとあおいの事を説明するのが難しくて言うべきか悩んだ。
「二人を連れ戻すことはできませんでした……。おんぷさんとあおいさんを救えなくて本当にすみません」
苦渋の決断で話したジュン。
「そうなんだ……。寂しいけど仕方がないの、か」
意外にもみかこはおんぷとあおいの件をあっさりと受け入れた。
「リリアさん、あのストーカー野郎は大丈夫なのですか?」
ジュンがケーシ君について触れたので、リリアは忘れかけていた不安感に襲われそうになった。
「ああ、ああ、みかこちゃんのためと思って出てきたけど、やっぱり出てきたのは間違いだったのかな。帰りとか見つかったら危ないよなぁ。怖い、怖いよ……」
まだリリアは情緒不安定なのだ。
「あの、今日なのですけど、リリアさんの自宅まで私がエスコートさせていただけますか? もしかしたらを含めて、ストーカー野郎から守って見せますので」
ジュンが提案をする。
「確かにメグリちゃんの見た目は女の子ながら威圧感があるもんね。いいかも、お願いしていい?」
「是非、任せてください」
この日、ジュンはリリアと初めてちゃんと話して、一緒に外を歩くこととなった。
リリアの自宅はイケブクロである。
オチャノミズ駅からイケブクロ駅までは東京メトロ丸の内線で行くこととなり、電車に乗る事となった。
電車の中は丁度二席空いていて、二人はそこへ座った。十一分程の短い電車だったが二人は少し濃い話をしたのだ。
「お店がある以上、ケーシ君の事はどうすることも出来ないんだ。でも、引きこもりのままじゃ生活も出来ないでしょ?」
「そうですわね」
「それで、ネットの友達から教えてもらったんだけど……、闇バイトを始めようかな、なんて思っているんだよね。ネットで簡単にできる事なんだってさ」
「リリアさん、闇バイト、所謂犯罪には手を染めない事を勧めます。と言いますか、辞めておいた方がいいです」
「どうして? 報酬ももらえるんだよ。お金のほかに、ドラッグなんだけどね。私一度使ってみたいの」
ジュンの脳裏には真っ先にチョコソースが浮かんできた。
「絶対にやるべきでないです。ドラッグについてなんですが……、みかこさんの前では言いませんでしたが、おんぷさんとあおいさんはドラッグに溺れてしまっていたのです。それも、あおいさんについては流行りのチョコソースと言うドラッグの過剰摂取により……、亡くなられましたので……」
「……え? あおいとおんぷは誘拐されただけなんじゃないの?」
「それが、マインドコントロールという手法で、おんぷさんたち独自でドラッグにハマり、誘拐というていでろりぃたいむを去った、というのが本当の事なのです」
「そう、だったんだ……。あおいはもう、いないんだ……。それじゃあ、もうろりぃたいむは終わりなんだね」
「残念ながら閉店する事でしょう。ですが」
「ん?」
「リリアさんはみかこさんとこれからも仲良くしてあげてほしいのです」
「それは全然構わないんだけど、今はケーシ君がいるじゃない……? 一体どうしたら、良いかな……」
リリアはケーシ君という名を躊躇いながら発した。
「ろりぃたいむはもう破堤しますので、店の事は気にしなくても大丈夫かと思いますよ。そのまま警察に相談してください。もし、躊躇うようであれば、代わりに私が伝えますよ。気にしないで前へ進んでください」
ジュンが言うと、リリアは初めて安心した表情を見せて胸を撫で下ろした。
「ありがとう。メグリちゃんってこんなに心強かったんだ」
「フフッ、私は――、いえ、何でもありませんわ」
不覚にも気が緩んだのかジュンは探偵であることを言いそうになった。が、耐えた。
「でも、メイドはまだ続けたかったなぁ……」
ぼそりと呟くリリア。
「それなら、出来ると思いますわよ」
「え? キイチさんがまた新しく運営でもしてくれるの?」
「キイチさんはもうしないでしょうね。ですが、私の知人で一人、新規メイドカフェの立ち上げを計画している方がいましてね。どうです?」
「求人が出てきたら、みかこと一緒に応募しに行きたいな」
そうして、二人はイケブクロ駅で降りリリアの自宅まで向かっていった。リリアが自宅に入ったのを確認したジュンは静かに最寄りの交番へ向かったという事だ。
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