第37話
オチャノミズの病院に救急搬送されたみかこは昏睡状態で、今もまだ意識は危うかった。
二人は病院について直ぐチャイムを鳴らし返事を待つことにした。
きっと、まだ夜勤の担当看護師が詰所で事務処理をこなしている最中なのだろう。
二分と待って、そのチャイムから声が帰って来た。
「はいー」
少し様子を伺うような声色。それはそのはず、二人が来たのは早朝の三時四十五分のことであった。
「あの、みかこさんという方はいますか?」
不審に思われたのか、対応したその看護師の声色が更に怪しくなる。
そうであった。みかこと言う名が源氏名なのか、本名なのかわからなかったし、いつ救急搬送されたのかもわからなく、自分たちはみかこと関係がある事をどう証明すればいいか困ってしまい、萌香はうまく説明が出来なかった。
「あの、一緒に勤務していたものですわ。ろりぃたいむというお店ですの」
だが、ジュンが気を利かせて話を進めてくれた。
「それなら確認が取れました。でも、今からですと……ちょっと案内が……」
「そこをなんとか……、お願いします!」
萌香が食い気味に必死にお願いをする。
担当の看護師はちょっとばかし唸ったが、特別、二人を中へ案内してくれたのだ。
「まだ早朝で皆さん寝ていますので、くれぐれも静かに。眠っているので余り声は掛けないでくださいね。それでは」
看護師はみかこの眠るベッドへ案内すると、自分の業務へ戻っていった。
「みかこさん……」
ジュンはベッドで眠るみかこを眺める。
ジュンはみかこの心のよりどころになれなかったことを悔しく思い、申し訳なさを感じた。
ごめんなさい。みかこさん、私がもっと傍にいて話を聞いてあげられたら。
今更ながら、五号のケーキを食べきれず、ぐちゃぐちゃに残してしまった事や、途中で帰ってみかこを一人にさせてしまった事や、それからも構ってあげられなかった事を改めて思いなおすと、これも全部みかこを切なくさせていたのだろうかと考えてしまい後悔に否まれてしまった。
みかこの衰弱した顔を見るたび、どれだけ辛かったのだろうと、同情してしまう自分がいて、それはそれで複雑な気持ちだった。
そして、みかこの着ている病衣が乱れて僅かに腹部の痣を確認したジュン。
みかこの家庭環境があまりよくない事を知っていたジュンは、きっと……と察した。
家庭環境が複雑なみかこを思うと、助けてあげたくなった。だけど、そう簡単に助けてあげるなんてことはできない。ジュンは探偵の身、潜入として一応のメイドを演じ、そこでみかことは知り合っただけの関係であるから、それ以上もそれ以下の関係にはなってはいけないのである。
これが、探偵業でないとなれば話は別なのだが、探偵業の内としてかかわった人物なので、事件が解決すれば、特にこれ以上絡む必要性はなくなると言う訳なのだ。
「ジュンさん、みかこさんはどうしてこんなことになってしまったのでしょうか。どうしていればよかったのでしょうか」
萌香がみかこを見つめたまま聞く。
「さみしかったのよ。誰もいなくなっちゃったから、孤独を感じて」
ジュンもみかこを見つめる。
二人は暫くの間みかこが目を覚ますのを待った。
眠っているみかこを見ていた萌香は緊張の糸が切れたのかその横で目をつむり始めた。そして、ジュンも睡魔に襲われ、二人は一時間程みかこと一緒に病室で眠っていた。
病院を出たのはまだ早朝の五時であった。
あてもなく彷徨う少女のように、二人は再びアキハバラへ向かった。
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