ーージュウゴーー

第33話

 ジュンはエースの拠点地であるクラブの目の前に立っていた。

 堂々と入るわけにもいかなかったので、暫く様子を伺ってみることにした。

 三十分程して、一人の少女がクラブから出てきたので、ジュンはその少女に話しかけてみることにしたのだ。

「あの」

 話しかけてみたものの、どう話を切り出せばいいか戸惑ってしまった。

「ん? エース様の子……、じゃないよね……。なに? 誰からか聞いてここへ来たの?」

「……ええ、そうよ。知り合いの幸崎さんと言う方からです」

「幸崎さんならエース様のお友達ね。私がエース様に話を取り合ってみるから一緒に中へ入りましょう」

 少女に言われ、ジュンはその少女と一緒にクラブの中へ入ることにした。

「おかえりなさいませ」

 可愛らしいメイドがお淑やかに挨拶をする。

どうやらここはメイドカフェをモチーフとしているクラブのようである。

門番らしきメイドを後に、ジュンは少女にエスコートされ二階へ移動する。

「ちょっと待ってね」

 少女は赤い扉の前で立ち止まり、その扉をトントンとたたく。

「エース様、新しいメイドが来ました。入ってもいいですか?」

 暫くの沈黙。

「はいれ」

 少女は少々の沈黙を耐えて、ようやく返事が来た時にほっと一安心した表情を見せて言う。

「入っていいって」

 ジュンは赤い扉に手を掛けて恐る恐る中へ入った。

「失礼します……」

 部屋の真ん中に三人掛けのリッチな腰かけ椅子が置かれていてその真ん中にエースは座っていた。四十半ばくらいの丸々と太った男だ。高そうな服であったが購入してから長い間新調していなかったのだろう。体はボンレスハムのようでボタンがはちきれそうであった。

その両端にはフリルを身に纏ったメイド達が右に四人、左に四人、姿勢よく並んでいた。

「名前は?」

「幸崎さんから教えてもらいました。メグリです」

「随分身長が高くてきれいな娘だな。幸崎からという事はソースはもう飲んだことがあるのか?」

 エースがジュンの身体を舐めるように眺めながら訊いた。

「え、ええ、あります」

 ジュンは咄嗟にウソをついた。

「そうか、それならきっとまた飲みたくなってきたころだろう。こっちへ来い、飲ませてやる」

 ジュンは危ないと思い、慌てて咳をするフリをした。

「どうした? はやくこっちへ、お前の身体も求めているんだろう」

「……はい」

 ジュンはエースの元へ行き、床に跪いてその丸々と太った男の顔を見上げる。

「良い顔だ」

 エースが言い、ニヤニヤと笑いながら小瓶を開けてスポイトでジュンの口にソースを垂らした。

「……っ……」

 バニラエッセンスのような甘い液体。

 ジュンはふわっと視界が眩んで局部が僅かにうずきだしたのがわかった。

「その目、効いてきたな。いいぞ、もっと飲むか?」

「いいえ、大丈夫です」

 ジュンはそう言って口に手を当てて後ろに下がる。

「誰か、この新人を休憩室に案内してあげなさい」

 エースがよろめくジュンを見て立っていたメイドに声を掛ける。

「はい」

 一人のメイドが案内してくれた。

 そのメイドに支えられて部屋を出ると話しかけられた。

「気を確かに、ジュンさん」

 声を聞いて、一瞬正気に戻るジュン。

 その声は萌香の声であった。

「萌香さん!?」

「しっ、話はあとでしましょう。今は休憩室に案内します」

 萌香はジュンの肩に手を添えて、冷静に一階の鍵付きの部屋、休憩室へ案内していった。

 休憩室のベッドに腰かけるジュンは一息つく。

微睡みかけたジュンだが完全にソースの影響を受けてしまったわけではない。ソースを飲む直前、ジュンは隙をついて口に脱脂綿を含ませていたのだ。そのおかげでソースの効果を最大限に味わわずに済んだのである。

脱脂綿を吐き出して、ジュンは咳込みながらそこにいた萌香と話をした。

「萌香さん、大丈夫だったのですか」

「はい、私はなんとか……、ジュンさんは大丈夫ですか?」

「脱脂綿で何とか……、と言いたいところですが少し効いてしまったようですわね……」

「それなら直ぐ水を飲んでください、十五分以内に水を飲むと効き目は薄まるようです。今直ぐ持ってきます」

 水を取りに萌香は一旦部屋を出ていった。

「ごめんなさいね……、お願いします」

 ジュンが萌香の背中に力なく伝える。

 どうやらジュンは薬に弱いようである。

 萌香が水を持ってきてくれるのを待っていたが、なかなか萌香は戻ってこなかった。

 ジュンは僅かなる快楽を感じ始めていた。

 十五分。このまま十五分が経過してしまうと、ジュンは薬の効果に負けてしまうのかと、自分の今後が怖くなってしまった。

 自身の身体で薬の効果を体感している以上、その恐怖と言ったら尋常ではなかった。

 このまま人ではなくなってしまうのかなど考えてしまい、気が気でなかった。

 だが、一分、二分、五分、十分……、と過ぎていくうちにどんどんその快楽は上昇していき、その快楽に溺れてしまいそうになりジュンは必死に心の内で藻掻いていたのだ。

「萌香さん……」

 萌香が戻って来たのは十七分後の事であった。

 萌香と一緒に部屋に入って来たのはエースであり、エースは罵声を浴びせた。

「なぜ水を与えようとしたんだ」

「ちょっと咳込んでいましたので……」

 萌香がなんとか言い訳をする。

 だが、エースの怒りは収まらない。

「ソースを飲んだ後水を飲むのは厳禁だ。誰かほかのメイドよ、二人をお仕置き部屋へ連れていけ」

 そうして、萌香とジュンは携帯電話も取り上げられ、三階のお仕置き部屋へ監禁されてしまったのだ。

その日、ジュンは水を飲むことを禁止されて、ソースの効果をお仕置き部屋でじわじわと味わうこととなったのだ。

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