第30話
ジュンが幸崎と会ったのは、次の日の十八時五分前の事であった。
「身長高いんだね」
幸崎はまず初めにそう言った。
「びっくりした。髪もきれいだし、何かやってる人?」
幸崎は更にモデルでもしているのかと聞いたが、ジュンはそれを否定して、小さくお辞儀をする。
「メグリです。今日はよろしくお願いします」
「よろしく。ご飯どこ行こうかぁ」
幸崎は言葉巧みに話をして、ジュンをエスコートしていくが、ジュンはそれを全部鵜呑みにしてはいけないと、慎重に話を聞いて時間を過ごした。
ご飯も食べて幸崎が満足した表情を見せた頃、ジュンは今だ、と話を切り出す。
「あの、お小遣いは」
「ああ、あげるあげる。でも、今日、ちょっと暑いし、どっかで休憩していこうよ」
幸崎からホテルに誘われたジュン。ジュンは米田の事が気になって仕方がなかったが、調査だ、調査だ、と活を入れて幸崎と一緒にホテルへ行くことにした。
ジュンは幸崎と性行為を行うつもりなんて微塵もなく、本当に休憩して少し話をして帰る気でいた。
だが、幸崎と言ったら、案の定、性行為を誘ってきたのだ。
「あの、私、しませんよ?」
「いや、少しだけだよ、少しだけ。触っていい?」
そう言って幸崎はジュンの胸を触ろうとする。
「いや、嫌です。やめてください」
ジュンは自我を持って、一生懸命抵抗する。
すると、幸崎は逆上しだして、鞄から何か取り出そうとした。
その一瞬も見逃さないジュン。ジュンはその腕を掴んで、幸崎を睨む。
「何を取り出そうとしました?」
身長もあるだけあって、女性にしてはジュンの握力は強く、幸崎にも負けじと対抗出来ていた。
「お前っ」
と、幸崎が言いだし、ジュンはようやく本性を現したなと、覚悟を決める。
二人が数分間取っ組み合いのようなものをしていると、さっき幸崎が何か取り出そうとしたその、何かが鞄の中から転がり落ちてきた。
それは謎の液体の入った瓶であり、それがチョコソースという出回っている薬物であることをジュンは一瞬にして察知した。
逃げようとする幸崎の腕を引っ張って、幸崎の顔を壁に押し付けるジュン。
ジュンはなんとか優位に立ち、幸崎に詰問した。
「幸崎さん、これは何ですか?」
「……はあ」
幸崎は諦めが付いたように大きなため息を漏らす。
「最近アキハバラのメイドらで流行っている薬さ」
「これを何故幸崎さんが持っているのですか?」
ジュンは隙を見せず、続けて聞く。
「知り合いの伝手で少し貰っている」
幸崎はそう言い、諦めきったように力んでいた腕の握力を弱める。
幸崎がそのチョコソースを使って少女らの自我を操っていることを知ったジュンは許せないと怒りが煮えたぎった。
「ココで通報されたら……、流石にどうなるかわかりますよね? 幸崎さん」
ジュンは未だに幸崎を押さえつけて話をする。
「わるかったよ……、もう何もしないし、逃げないし、全部話すから……、手を放してくれ」
幸崎は早々に懲りたようである。
ジュンが警戒しながらもゆっくりと幸崎を解放する。
「知り合いがこの新薬を遠い海外から入手してきたんだ。それで、この薬が出回りだして、それも大体半年前くらいからかな。俺はその知り合いの伝手で貰っていたんだけど……、もう、貰ったりしないし使わないから、どうか、警察には……」
幸崎が懇願している。
「その知り合いの方の居場所、教えてください」
ジュンは安心して気を許してしまってはいけないと、気を引き締めて、自分が優位に立ち、相手に隙を見せてはいけないと、話を進める。
「その知り合いの方の情報を教えていただけるのであれば、幸崎さんの事はココで見逃します。どうしますか?」
「……はあ、わかったよ……」
幸崎はもうどうにでもなれと、首を振りそのチョコソースと言う謎の薬とその知り合いについて話し出した。
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