第21話
「おいおい!またかよまたかよ、どうなってんだよ、はあ」
キイチが焦った形相で皆の元へやって来た。
「どうかしたのにゃ?」
「あおいが誘拐されたとよ。メッセージカードが俺のロッカーに入っていたんだ」
キイチは言いながら手に持っていたメッセージカードを皆に見せた。
ジュンはそのカードを見て、思わず顔をゆがめる。
どうもヘンだ、と思ったのだ。
「誘拐?あおいちゃんは昨日、メイドを引退するって言っていたのにゃ。キイチさんにはもう報告済みなのかと思ったけど、違ったのかにゃ?」
「そうですね、確かにあおいさんは昨日やってきて普通にお給仕されてましたけど、最後、メイドを引退すると言って帰っていきましたね」
みかこと萌香が昨日のあおいの姿を思い出しながらキイチに伝えていく。
「でも、それじゃあこのメッセージは一体何なんだよ?」
メイド達と話がかみ合わなく、キイチはメッセージカードを気味悪そうに見て、もう一度メイド達の目を見る。そして、またメッセージカードに目線を移す。そして、またメイド達を見て、え?という顔をした。
「あの、私によく見せてくださります?」
ジュンが一足前に出てキイチに言う。
「ああ、これなんだが」
――カワイイメイド、アオイチャン、バレンタインマデマテナカッタネ。トワニバイバイ。――
「ほう……、まるで、もう一生帰ってこない、みたいな言い分ですわね。それに……、バレンタインなんてまだまだ先の事ですのに……、あ」
ジュンは気が付き、思わず声を漏らしたが、そこでは敢えて言わなかった。
代わりに、ジュンはあることを言い出した。
「あの、お店の中で誘拐された方はあおいさんだけではないですよね。前にもう一人いると思うのですが」
ジュンはおんぷの存在を仄めかす様に話した。
「ん?どうしてメグリちゃんが知っているのにゃ?」
みかこが首を傾げ、唇に人差し指を当てて笑顔で聞く。ジュンの真の目的を探ろうとするような、ちょっと怖い顔をみかこはする。
ジュンの潜入調査がバレると、事件は恐らく未解決に終わる。
キイチからおんぷが誘拐されたことを教えてもらったのは萌香で、萌香はそれをジュンに伝えたとは誰にも言っていない。そして、他のメイド達もおんぷの事をジュンに伝えることはなかったので、ジュンはおんぷを知らない、という設定なのだ。なので、萌香はなぜ今更それを言及するのか、と動揺してしまった。
「ろりぃたいむの噂がアキハバラで広まっていまして、ここら辺のメイドさんたちは既に皆知っていると思いますが……」
実際、ろりぃたいむの噂がアキハバラ全体に広まっているという事はあり得なかった。だが、ジュンは何とか話をごまかして、噂で聞いたというていで話をした。
「広まっているのなら仕方ないかにゃ~」
みかこは諦めるように言い、キイチにおんぷという存在の説明を促すように目線を送る。
キイチは仕方ない、と説明を始めた。
「そうなんだ。あおいが誘拐されたという事になると、この店では誘拐されたメイドは二人目という事になるんだ。あおいの前に、おんぷという優秀なメイドが在籍していたんだが、メッセージカードを残してそれっきり姿を眩ましたんだ。誘拐されたんだよ」
キイチは、ハア……、と重いため息をついて項垂れてみせた。
「そのおんぷさんが誘拐された時に残されていたメッセージカードを見せてくださりますか。お願いします」
ジュンは落ち着いた素振りで丁寧に訊いた。
「メッセージカードね、写真で撮っておいたんだ、これだよこれ。怪奇文章じゃないか?」
キイチは直ぐに写真を見せてくれた。
ジュンはその文章をそのまま読み上げた。
「“シラナイコト、シラナクテモヨカッタノニ、ドウシテ、カガヤカシイ、オンプチャン、イタダキ”」
ジュンが何か考えだし、全員が静かになる。
「どう?何か意味があるのかなんてわからないだろう?」
「ええと、もう少し考察がしたいですね。この文章メモさせていただきますわ」
そう言い、ジュンは懐からメモ帳を取り出して、キイチの携帯電話を見ながらメモを取っていく。
萌香はジュンが探偵とバレてしまうのではないかと終始ドキドキしながら見ていた。
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