第19話
三週間ぶりにあおいはろりぃたいむへ顔を出し、それに気が付いたみかこは、わああああ! と大声で駆け寄り、猫のようにあおいの胸にとびかかった。
「あおいちゃんにゃぁ~! クンクン、うんあおいちゃんだね、あおいちゃんだよ、このにおい、復活嬉しすぎるにゃぁ」
みかこはあおいの顔を見れて興奮しながら喜んでいた。
「もう、みかこちゃんはしゃぎすぎだよ」
と、子供を相手するかのようにみかことじゃれ合うあおい。
「体調は良くなったのですか?」
萌香が訊くと、あおいは元気に答えた。
「大丈夫だよ、もう大丈夫。今日は楽しもう」
営業時間が始まってご主人様達がご入国してくると、あおいはいつも以上に張り切った様子で、メイドになりきっていた。そのなり切り様と言ったら、メイドではない本当の自分を必死に隠そうとしているかのようにも見えた。
溌剌とした接客を見たジュンは、本調子に戻ったということなのだろう、と安心していたが、閉店時刻午前四時を迎えた途端、あおいは電池が切れたロボットのように真顔になってしまったのである。
「ずっと考えていたんだけどね」
あおいは皆を集めて、唐突に話し出した。
「ろりぃたいむに出会えて本当によかったな。値段の決まった私はこれ以上上がることも下がる事もない、ごく平均的な価値しか与えてもらえなくて、ただ生きるというためだけに我慢を繰り返さないといけないんだって思っていた。人生なんて怠惰なんて思っていたけど、だけど、ココは心から楽しいと思えたし、ココだけは私に居てもいいよって言ってくれて、ココに居る人たちは何の価値もない私を大好きとか言ってくれて、ろりぃたいむは私にとって拠り所となる場所なんだなって思ったよ」
あおいはにっこり笑って、そして「だけど」とつけ足した。
「そんな大切な場所にこれ以上迷惑をかけるわけにもいかないから……、これを機に私はメイドを引退しようと思うんだ」
苦渋の決断の上であおいは皆に告げた。
「あおいちゃん何冗談を!」
涙目になりながらみかこがひどく動揺していた。
「みかこちゃん、ごめん」
あおいはみかこの顔をしっかり見ることが出来なかった。
それでもあおいはメイドを引退することを決めて皆を説得していくのであった。
「あおいちゃんには一杯お世話になったよぅ。こうやってにゃんを最初に甘やかしてくれたのもあおいちゃん。だからにゃんはあおいちゃんの事が大好きだったにゃ。一緒にお給仕している瞬間が本当に楽しかったのにゃ。だから……、たまに連絡しちゃうかも、なの。その時は遅くなってもいいからお返事……頂戴ね……」
「うん、気が向いたらするよ」
そして、あおいは「今までありがとうございました」と深く礼をして、早朝の朝日と空気に溶け込むように店を出て行った。
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