ーーハチーー
第17話
今日は保坂がいるだろう、と謎の確信と共に、新しいコスプレ衣装などを求めて保坂のところへ向かったのだ。
店は営業中で、陽気な保坂が萌香を迎える。
「おお~、ちょいと久しぶりじゃの、お嬢ちゃん」
「お邪魔します。この前来た時やっていなかったので日を改めて来てみました」
「ああ、あの時は、ちょいと……あってな」
保坂は歯切れ悪く言い、頭をポリポリと掻いた。
「店長、その手はどうしたんですか?」
頭を掻く保坂の左手には湿布が貼られてあったのである。
「ちょいと、仕入れ作業の時やっちまってのう、それよりお嬢ちゃん、メイドの方はどうじゃ?」
触れてほしくなかったのか、保坂は別の話を振った。
「メイドはジュンさんがいるおかげで何とかやっていけてますが……」
萌香がお給仕の事についてさらに詳しく説明しようとした時、ジュンと米田がセットでやって来た。
「ヘイジ君~、久しぶりですぅ」
米田が中に入って来た瞬間、一気に店の湿度が上がった気がする。
「おお、米田氏、またまた、お連れは例のメイドになった彼女さんかね?」
「お邪魔しますわ」
律儀に挨拶をするジュン。
「二人ともメイド業はうまくいっておるようじゃの」
「そーなん?ジュンさん、メイドの事なんて全然話してくれないから僕全然知りませんでしたよぅ」
米田はジュンのお給仕する姿を想像して、今にもドュフフと声を上げそうな感じだ。
「今回は普通のバイトとはわけが違うのですからね」
「はあ、でも、なぜ急にメイドさんなんか?」
「萌香さんのお助け、ってところでしょうか?まあ、飽きたら頃合いを見てやめようと思っていますけれどもね」
自分が潜入捜査をしている、という事は最小限に抑えておきたかったので、ジュンは米田に潜入調査をしている事を教えていなかったのだ。
「僕もジュンさんの働く姿を見てみたいですなぁ」
「それなら保坂さんと一緒に来てみたらいいじゃないの。勿論初対面というテイでですけどね」
それを聞いた米田が、保坂を見て言う。
「ヘイジ君、行ってみるかい?」
「まあ、時間が合えばじゃの」
保坂は正直あんまりメイドカフェへ行きたいとは思わなかったのだが、米田の乗り気な姿を見てはどうしても断れなかったので、何となく曖昧に返しておいたのだ。
いつもはマイペースでノリのいい保坂なのだが、今日は何だがノリが良くない日のようだ。
米田と保坂が、また別の話をしている間、ジュンは保坂を何となく観察していた。
左手の湿布が気になってしまって仕方がなかったのだ……。
でも、そんなことはあり得ない、と必死に別の理由を見つけようとした。
バイトの時間が迫ってきたので、ジュンと萌香はろりぃたいむへ向かうことにした。
「僕はまだヘイジ君と話をしたいからまだいますねぇ、二人とも頑張ってくださいなぁ」
米田は二人を応援して店を出て行くのを見送り、残った保坂と談笑を再開した。
ろりぃたいむでの出勤中、保坂を信じたくとも、左手の湿布が気になって、もやもやが収まらず、その日、ジュンはお給仕に集中することが出来なかった。
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