ーーゴーー
第14話
二日後、萌香は保坂のマニア系コスプレショップへ足を運んだのだが、生憎店は休みで、鍵が閉まっていた。
奥に保坂がいるような気配もなかったので、諦めて別のコスプレショップへ行こうと決めて、萌香はアキハバラで新たなコスプレショップを探すことにした。だが、見つけた店は閉店してしまったり、品数が少なかったりとどれもイマイチで萌香がキュンとときめくようなことはなかった。
案外、ザ・コスプレショップと堂々と名乗れて生き残っている店は保坂のマニア系コスプレショップだけなのかもしれない。
店に保坂は居なかったが、萌香は道中、アキハバラ駅で保坂に似ている人物を見つけたのだ。
駅を彷徨う人々は他人の視線など気にしない。気にしていたらキリがないのだから、仕方がない。なので萌香が見つけたその人物も萌香に気が付いてはいない様子であった。
京浜東北線に各停電車が帰ってくる時間。男はするすると改札を抜けて、各駅停車と表示されたホームへ流れるように消えていった。
萌香はその十秒ほどの間、たまたま男に視線を留めていた。
その男が保坂であるのか、保坂でないのか、確認する余裕はなかったが、恐らく保坂なのだろうと萌香は思った。保坂を店以外の場所で見かけるのは初めての事であったから、後を追ってみたくもなったのだが、プライベートを邪魔するわけにはいかない、と静かに身を潜めておくことにした。
車内では学校帰りの女子高校生三人が、やや大きめの声で談笑をしているのが目立っていた。
電車に乗った男はイヤフォンを左耳に差してそれをシャットアウトする。男が聴いているのは懐かしい青春ソング。スマホの画面に映し出されているのはとあるネットの記事。一部のSNS上では某有名ライブ配信者が自宅で自殺配信をした、という記事が話題となっていたのだ。リアルタイムの匿名投稿を左手でスライドしながら、男は最新の匿名投稿に目を留める。『すべてはアンチリスナーたちが悪い、誹謗中傷はネットを通じて人を殺す凶器になりかねない、今になって言い過ぎたなとかは遅い。一生犯罪者という肩書を背負っていくんだな』
それはアンチリスナーたちへ向けた皮肉の混ざった個人の常識や正義論でしかないのだろう。死んだ配信者の真相は不明瞭という事実からこの投稿をする匿名人物の決めつけはただの妄想でしかないと言える。自身は常識人であると呟いているだけなのである。
丁度、車内アナウンスがアカバネを呼び、男は投稿にイイねを押してイヤフォンをポケットにしまう。
電車を降りアカバネの空気を吸った男は、再び携帯電話を片手に一人の人物に電話を掛けた。
「もしもし、今駅に着いたところなんが、なんか買ってきてほしいものはあるかい?ああ、お茶ね、りょーかい。場所はいつもの公園で。うぅーん、今から向かうから多分十五分後くらいになるかのう。ちょいと待っていておくんなさい」
電話をしながら、帰宅ラッシュで混雑する駅構内をうまく掻き分けて歩く男。
男は途中でニュウデイズを見つけ、そこで麦茶を二本買い、駅を後にその足はアカバネ公園へと向かっていったのであった。
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