第59話 ドSの制裁

「な、何でレオンのお腹に刺さらないの? あ、さっき言ってたアウラってやつ?」

 頭上のジェイミに問いかける。


「そーだよ。アウラっていうのは、全身の気の巡りを操作して、身体能力を底上げする技なんだ。今レオンがやってるのは“鋼鉄のアウラ”。早い話が身体をカチコチに固めてるって訳」


「身体をカチコチに……ジェイミはそのアウラっていうのを使えなくされてたから、防げなかったのか……」

「悔しいけど、そういうこと」


 舞台上ではアロガンがレオンのあちこちを突っついてキンキンいっている。その度に会場からは笑いが起こった。


 ここで入場口にいたディアー、ドロレス、ラースが舞台の縁までやってくる。審判はすかさず拡声器を彼らへと向けた。


「おいアロガン! そいつ、裏魔法が効かねぇ!」

 と、ラース。

「は? 裏魔法が効かないやつなんているのか?」

 アロガンは唖然とする。


『おーっと、アロガン選手、裏魔法の仕組みを理解していない! ズルしておいてなんて間抜けなんだー!』

 笑いが起こる会場。私も思わずふっと吹き出してしまった。


「裏魔法が効かないなんてこんなの初めてよ! 兄さんどうする!?」

 と、ディアー。

「くっ……こんなことがあってたまるか……!」

 悔しそうな顔をするアロガン。


 その時、レオンが嘲笑いながらとんでもない煽りをする。

「てめぇら、4人まとめてかかってこいよ。そうすりゃ1ダメージくらいは入るんじゃねぇか?」

「んだとこの野郎!」

 ラースが挑発に乗り舞台へと上がる。


『なんとレオンハルト選手、4人一気に相手をするつもりだー!』

 わーっと湧く会場。


「てめぇらも早く上がれ! 後ろから黒魔法で援護しろ!」

 ラースはそう発狂する。

「わ、分かったわよ……」


 ディアーとドロレスが舞台へと上がると、レオンは大剣のつかに手をかけて不気味に微笑んだ。

「かかったなクソ雑魚どもが。安心しろ、殺すなんて生ぬるいことはしねぇ。いっそ殺してくれた方が良かった、そう思わせてやるよ……」


 レオンは赤いオーラをまとうと、目にも止まらぬ速さで4人の背後へ斬り抜けた。


⸺⸺奥義 絶対零度・氷神⸺⸺


 4人が大きな氷の柱へと飲まれていくと同時に、彼らの背後にレオンの姿が現れる。

 4人は氷の中に囚われカチコチに固まっており、そのオブジェの様な光景にわぁーっと歓声が巻き起こった。


 レオンが冷気を帯びた大剣をスッと納刀すると、巨大な氷のオブジェはパリンッと音を立てて崩れていき、会場中にキラキラと舞う。

 舞台上に4人の冷凍魚がドサドサッと崩れ落ちると、彼らはすぐに息を吹き返しはぁはぁと苦しそうにもだえていた。


「ど、どうなってんの……?」

 私は目をぱちくりさせながら、苦しむ4人を見る。

「僕も良く分かんないけど、多分レオンは細胞レベルにどこを凍らせて、とかってのを調整してると思う。より苦しくなるように、でも血を流しているんじゃないから観客にはどのくらい苦しいのかが伝わりづらい。だから同情すらしてもらえない。多分、レオンの宣言通り、彼らは今『死んだ方がマシ』って思ってると思う」


「うげ……」

 私は思わず口元に手を当てた。


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