第58話 どんな手も通じない男
ジェイミはすっかり元気になり、血塗れの服のままさっきのジャンの様に私を後ろから抱きしめて頭に顎を乗せてくる。
なんかゾンビに襲われてる気分なんだけど……。ってか、ジェイミ、あんなにボコボコにされながらも私がどういう体勢で試合を観戦していたのかちゃんと見てたんだ。
⸺⸺
レオンが舞台に上がってくる。そして偉そうな長男アロガンも舞台へと上がってきた。
『ラスト第三戦、レオンハルト・バルツァー
「レオンハルト! レオンハルト!」
会場が一斉にレオンコールをし始める。
「実況の人も味方につけたね……」
「ふふーん」
私が頭の上のジェイミにそう話しかけると、彼はご満悦のようだった。
そしてアロガンがレイピアを構え、妹2人が魔法杖を構える。この2人まだやるつもりだ。
レオンはというと、大剣は背中に収めたまま頭の後ろで呑気に腕組みをしていた。
「あれ? 裏魔法発動してるよね?」
私は相手サイドの魚女を見つめる。
「レオンは魔力豊富だから、ああいうの効かなくて良いよね~」
と、ジェイミ。
「え、魔法かけてるのに効いてないの?」
「そ」
ここでマルクス様が口を挟む。
「レオンの先祖には色んな種族の血が混じってるから、それぞれのいいとこ取りをして、ステータスがバカ高いんだよ。だから純クラニオの血筋の魔力じゃぁ、到底及ばねぇだろーな」
「何! 複数種族の血を混ぜるとそんなことになるのか! レオンハルトが一番侮れんと思っていたが、そんな理由があったとは……」
と、カーサ国王。これは感化されてるやつ。
「僕は純クルスの血だから魔力低めで普通にかけられた……ちょっと悔しい」
「ジェイミ……ドンマイ……」
私は自分の頭上の更に上をヨシヨシする。
「あのアロガンって野郎、レオンが動かねぇから、状態異常にかかったと思い込んでんぞ。見てみろよあのドヤ顔」
ジャンが笑いを堪えながらそう言う。
「その後ろでは魔法がかからないことに焦りを感じている魚女がいるな」
と、クロード。確かに舞台でドヤってる一方で、後ろはめっちゃ焦ってる。
「あれ、でも気絶覚悟で撃てばかかるんじゃなかったっけ?」
私はずっと前にクロードに魔封印の裏魔法をかけてもらったことを思い出した。
「魔力差があり過ぎるか、単に知識不足でそのことを知らないか、だな」
そうクロードが答えてくれる。
「なるほど……」
そして試合が開始される。
レオンが動かず、更に魚女2人が入場口で魔法を唱えていることから、会場は大ブーイングに包まれる。
ドヤ顔でレイピアの切っ先を向けながら向かってくるアロガン。
レイピアがレオンの脇腹を突き刺そうとする。悲鳴が上がる観客。私も思わず悲鳴を上げそうになったが、衝撃の光景を目の当たりにする。
レイピアはレオンの脇腹に突き刺さることはなく、キンッと金属を突っついたような音がして弾かれていた。
「……は?」
サーッと青ざめていくアロガン。ざわつく観客。
「何でだよ! 何で刺さらねぇ! お前一体どんな防具装備して……」
審判が2人へ拡声器を近付け、アロガンの間抜けな声が会場中へ響き渡る。
「何も付けてねぇって。なんなら脱いでやるよ」
レオンはそう言ってコートを脱ぎ捨て、シャツを脱ぎ上裸になると、再び頭の後ろで腕組をした。
その筋骨隆々の美しいボディに会場からは「おぉぉ……」と感嘆の声が漏れる。
「今レオン動いたよね」
「うん、動いたね」
私の問いに、頭上のジェイミが即答する。
「でもアロガンの野郎気付いてねぇんだよ……!」
ジャンはお腹を抱えて笑っていた。
「自ら防具を脱ぎ捨てるとは愚かだな! このレイピアでその腹わたえぐってやる!」
アロガンが引き笑いをしながらレイピアをお腹のど真ん中へ貫こうとするが、やはりキンッと言って貫くことができない。
「おい、へそはくすぐったいだろ……」
レオンが拡声器を通してそうボソッと言うと、会場中が笑いに包まれた。
「なっ、一体何が起こっている!? おい、笑うな愚民ども! ラメール王国で2番目に偉い俺を笑ってみろ! どうなるか分かってるんだろうな!?」
アロガンが泣きそうな顔でそう叫ぶと、会場は更に大きな笑いが沸き起こった。
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