第56話 嫉妬深くて狡猾な王女たち

『第二戦、中堅はジェイミ・シャンカルネvsバーサスラース・ラメール! なんと、どちらも武闘家、殴り合いの大喧嘩だぁ!』

 いつものようにわーっと湧く会場。


 でも、舞台に立つジェイミの様子が既におかしかった。

「ジェイミ、あんなふうに突っ立ってどうしたのかな……いつも戦うときは少し腰を落として構えてるのに……」

 私がそう言うと、相変わらず顎を乗せているジャンが私の前髪をわしわしと撫でてきた。

「さくら、ジェイミのこと良く知ってんじゃねーの。おい、まさかもうジェイミに抱かれてんじゃねぇだろうな?」

「だ、抱かれてないもんっ!」


 真っ赤になって否定する私をよそに、ジャンは魚兄妹のいる入場口を見るように促してくる。

 すると、妹2人が魔法杖を構えて杖の前に魔法陣を作っていた。それは、魔法を発動している証拠だった。


「あっ! 裏魔法使ってるの!? ジェイミは今どうなっちゃってるの?」

 私の問に対し、クロードが答える。

「女2人のそれぞれから身体の拘束と、アウラの封印を食らってる」


「えっと、アウラって……さっきジャンがやったあの赤いオーラまとうやつ?」

「アウラはそれだけじゃねぇよ。攻撃を防ぐ術もあるから、それを封じられた今、ジェイミはただのサンドバックだ。あのラースってやつ、見た感じ腕力はありそうだから、ジェイミ、ボコられるぞ」

 と、ジャン。


「そ、そんな! じゃぁクロードあの2人を止めなきゃ!」

「いや、ジェイミは殺されそうになったら止めろと言った。今はその時じゃない」

 と、クロード。

「そう言う問題なの!? ジェイミがボコボコにされてもいいの!?」


「良くねぇに決まってんだろ。でも、あいつの目、見てみろよ。あいつはボコられる覚悟がもうできてる」

 と、ジャン。

「ジェイミ……なんで……」

 ジェイミの目を見ると、余裕で見下しているような、そんな目をしていた。

「なんでかは、あいつが戻ってきたら直接聞け。ほら、始まんぞ」


 審判の試合の合図と共に、ラースが正面から突っ込んでくる。そして、いきなりジェイミの顔面を何のためらいもなく思いっきり殴ってきた。


「いやぁっ!」

 思わず悲鳴を上げる。すぐにジェイミの鼻から血が出てきていた。


『おーっと? これは一体どういうことだ? ジェイミ選手なぜ動かない!?』

 会場もざわついている。

 そんなことお構いなしに、ラースはゲラゲラと笑いながらジェイミの全身をボコボコに殴っていく。どうしよう、こんなの見てられないんだけど……。


 すると、すぐに審判から試合中止のジャッジがされる。

「仲間の女性2人によりジェイミ選手への裏魔法を確認!」

『何だと~! あっ、みんな入場口を見てくれ! ラース選手とそっくりの顔の女性2人が裏魔法を唱えてるぞ! これは卑怯だ!』

 会場中がラースに対し大ブーイングを送る。


 そんな中、審判とジェイミが何かを話しており、審判が拡声器を通して会場へこう告げた。

「ジェイミ選手本人の希望により、このまま試合続行!」

『何~!? ジェイミ選手はこんな卑劣な状況にも関わらず試合続行を選んだ~!』

 会場は驚きの悲鳴に包まれ、再びラースへの大ブーイングが起こった。


 そんな大ブーイングにも関わらず、妹2人は裏魔法を止めようとすらせず、ラースはジェイミを再び殴り始めた。

 そしてジェイミの気絶により、ラースの勝利で第二戦が幕を閉じた。


 試合が終わるとルシオが舞台へと飛び出し、ジェイミを担いで入場口から退場していった。その際、すぐに意識を取り戻したジェイミはレオンと何かを話しているようだった。


「さくら、会場見てみろよ。1勝取ったのはラースの方だけど、本当の意味で勝ったのはどっちだろうな」

 と、ジャン。

「会場中がジェイミ様の味方ですね」

 シャーロットが会話に入ってくる。

「そう、だけど……」

 私はジェイミの容態が心配でそれどころではなかった。


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