第42話 練習

⸺⸺翌日。


 私とクロードはあえて別々に家を出て、本番通りの“ブライリアント城前”で待ち合わせをする。


「なんか私緊張してきたかも……」

 おめかしして慣れないヒールも履いて、コツコツとお城へと向かう。

 その後ろからは残りの黒狼のみんなが護衛のようにゾロゾロとついてきている。


「大丈夫、僕たちもすぐ近くにいるし、さくらはいつも通りにしてればいいよ。だって僕と買い物行く時はさくら普通じゃない? あれだってデートみたいなもんだよ」

 と、ジェイミ。


「あ、そう言われてみれば……。私デートなんかしたことないって思ってたけど、意外にしてるのかも……」


「とにかくお前は自然体でいて、クロードがつまんねぇと思ったら正直につまらない! って言っちまっていい。それがあいつのためにもなるしな」

 と、ジャン。


「うん、ありがとう」

 そうだ、自然体でいればいいんだ。


 チラッと、レオンの方へ視線を送ってみると、彼は小さくうなずいて微笑んでくれた。

 それは、側にいるからなと言ってくれているようで、私の緊張はすっかりとほぐれていった。


⸺⸺ブライリアント城前⸺⸺


 お城の前には、クロードとなぜかニヤニヤ顔のマルクス様が立っていた。

 マルクス様は私たちを見つけるなり走ってこちら側へ合流する。


「お前らこういう面白い事するときは俺を呼べって!」

「なんでデートの練習に“国王”を呼ばなきゃなんねぇんだよ」

 レオンが即座にツッコむと、マルクス様は「あ、俺国王だった」と頭をかいてはにかんでいた。


「よし、行ってきます」

 私がそう言うと、みんな「行ってらっしゃい」と明るく送り出してくれた。


⸺⸺デート開始⸺⸺


「クロード様、すみません、お待たせ致しました」

 コツコツとクロードへ歩み寄り、ペコッとお辞儀をする。

 すると、クロードは懐中時計を見て、ガミガミと説教を始めた。


「全くだ。待ち合わせの時間を5分もオーバーしている。これではデートプランを全てこなすことができない。少し急いで最初のスポットへ向かうこととしよう」


 その瞬間、外野から一斉にブーイングがきて、クロードは驚きのあまり目をパチクリとさせる。これを想定してわざと遅れてきて正解だったとみんな考えていた。


 そして、マルクス様によるクロードへの天の囁きが聞こえてくる。

「褒めろ~! さくらはお前とのデートのためにオシャレしてきたんだぞ~、褒めろ~!」


「褒める……? さくら、少し背、伸びたか?」

「えっ? あぁ、ヒール履いてるからね……」

 あまりにもクロードらしいセリフに私は思わずクスッと笑う。

 崩れ落ちる外野。


 割と想定通りのスタートに、私はなんだか逆にわくわくしてしまっていた。


 ……が。


「急げさくら、もう予定の時間を20分もオーバーしている。急いで博物館を回るぞ」

「ま、待ってぇ……。今日はそんな早く歩けないんだってば」


⸺⸺ライヴィリア歴史博物館⸺⸺


「いいかさくら、この国は世界クラン連盟の設立に大きく関わっていて……」

「クロード説明長いよ~……ってか足痛くて全然話入ってこないし……」

「足が痛い? そんな歩きにくそうな靴なんか履いてくるからだぞ」

「えぇ~……」


 その時、レオンが静かに私の隣に並び、私が普段履いているスニーカーをスッと置いた。

「あっ、持ってきてくれてたの?」

「いいからサッサと履き替えろ」

「うん、ありがとうレオン!」

「ん」

 私が靴を履き替えると、レオンは残ったヒールを回収してバックヤードへと戻っていった。


「大事な嫁の足だもんな」

 マルクス様の声が聞こえてくる。

「うるせぇな……」



⸺⸺武器屋⸺⸺


「この国は主にエーベル商会が流通させた様々な武器が取り揃えられており……」

「武器とかどうでもいいからお腹空いたよ~……」

「ダメだ、レストランに行くまではまだあと3軒回って……」

「えええぇぇ~……」


 ここでレオンが介入してくる。

「クロード、もう分かった。とりあえず今日は中止だ。さくらももう限界が来ている」

「何っ!? まだデートプランの半分もこなしていないぞ」

 クロードはそう言って冊子のようなものをペラペラとめくる。そこには、どの建物に何時何分に入って、なんの説明をするかまで詳細に記されていた。


「うわ……クロード、私のためにこんなに考えてきてくれたんだね……」

「あぁ、だが、さくら……限界というのは、つまらないと言うことか? 正直に教えてほしい」

 クロードにそう問われ、私は今朝のジャンの言葉を思い出した。そして……。


「ごめん、つまんない……」

「……!」

 クロードは白目を向いて仰向けに倒れていった。


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