第三章 お家騒動

第41話 さくら、デートしてくれ

 ある日の夕食後、みんなでリビングでまったりと食後のコーヒータイムを楽しんでいた時。

 その一言で平和なリビングは騒然となる。


「さくら、明日私とデートをしてくれ」

「!?」

 クロードから放たれたまさかの一言に、全員が揃ってコーヒーを噴き出した。


「わぁ、ソファにシミがっ!」

「ちょぉ、この部屋着気に入ってたのに!」

「と、とりあえず雑巾雑巾……!」

 みんなバタバタと自分の噴き出したコーヒーの処理に追われる。


「私……何か変なこと言っただろうか?」

 と、クロード。それに対し全員で「言った!」と、返事をする。


「ちなみにクロード、何か買いたい物があって、ついてきてほしい、とかってこと?」

 と、私はあちこち拭きながら尋ねてみる。

「いや、それはただの買い物だろう。そうじゃない、恋人同士がするようなデートだ」

 彼はそうきっぱりと言い切った。


⸺⸺


 魔導掃除具がコーヒーのシミも吸い取ってくれて、みんななんとか元のくつろぎへ戻ったところで、クロードへの事情聴取が始まる。


「クロード、一体全体どうしてさくらとデートしたいの?」

 と、ジェイミ。

「実は……今日マルクス陛下に呼び出されてな。5日後にエルセイジ王国から父上と母上が私の様子を見に来るそうなのだ」


「実家から両親来んのかよ……最悪じゃねぇか」

 と、ジャン。

「ジャンの言うとおり、私にとってあまりかんばしくない状況なのだよ」

 私は「どうして?」と問う。


「どうやら、私の成長が見られなかった場合、国に強制送還されるようなのだ」

「え、クロード実家帰るの?」

 と、リュカ。

「お前とは2年くらいの付き合いになるか……今までありがとな」

 と、ジャン。


「おい、まだ帰るなんて一言も言ってないだろう」

 クロードは苦い顔をしてそう反論する。

「成長って……女性の扱いってことだよね?」

 と、ルシオ。

「ぱふぱふしてるようじゃぁ無理そう……」

 私はいつかの“猫吸い事件”を思い出す。

「だな、お前が帰るのは決定事項らしい」

 と、レオン。

「あぁ、それでさくらとデートかぁ……」

 最後にジェイミがしみじみと呟く。


「そういうことだ。5日後、私の婚約候補の女性が両親と一緒にこの王都へ来る。そして、1日デートをしなきゃならないらしい」

「絶望的だな」

 言葉とは裏腹にニヤニヤしているジャン。

「せめてその時のデート相手がさくらなら打ち合わせられるのにね~」

 と、ルシオ。それに対しうんうんとうなずく一同。


 初めはクロード、何を言い出すんだろうって思ったけど、クロードが国に帰らなきゃいけなくなっちゃうのは嫌だな。

 クロードには獣石をもらったり、訓練所にもついてきてもらったし、たくさん助けてもらった。

 今でも魔法の師匠としてアドバイスもしてくれているし、何よりこのアジトの大切な家族だ。


「分かったクロード、明日、デートしよ!」

「さくら、付き合ってくれるのか、ありがたい!」

「うん、付け焼き刃かもだけど、やらないよりは良いよね、きっと!」


「じゃぁさ、俺らが側で見守って講評しようぜ」

 と、ジャン。多分彼はついていきたいだけである。

「確かに、ついていかない選択肢はないね」

 と、ジェイミ。


 こうして明日は全員クラン活動をお休みして、クロードのデートの練習に付き合うこととなった。


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