第32話 おはようレオン

⸺⸺宿屋 レオンハルトの個室⸺⸺


 チュンチュン。


「んー……」

 あれ、もう朝か。私、次元の狭間から帰ってきたんだ。

 あの可愛い上司、激おこぷんすかぷんぷんだったな。

 可愛いからもうちょっとお話したかったけど、強制的に戻されてしまったようだ。これじゃ私が怒られてるみたいじゃないか。


 っていうか私、レオンの腕枕で寝てるじゃん……。しかもがっちり抱き枕にされて、なんて幸せなんでしょう。

 これも猫だから平気なこと。人間の姿じゃとてもじゃないけど意識が保てないよこんな状況。


 私は調子に乗ってレオンの方へ寝返りを打つ。うわぁ……こんな至近距離で見てもめちゃくちゃイケメン。しかもちょっと口開いてる無防備なレオン……萌える。

 はぁ~……かっこいい。


 しばらく彼に見惚れていると、彼はゆっくりと目を開いた。

 そんな彼へおはようって言ってみる。多分猫だからにゃぁってなるけど……。


「おはようレオン……え?」

「……は?」


 あれ、しゃべれたな……私、今人間なんですけど、何で!?

 お互いにみるみる顔が赤くなっていく。そして……。


「いやぁぁぁぁぁっ!」

「てめぇ獣石持ってる意味ねぇだろ!? って、気絶すんのそろそろ卑怯だからな!?」


 私は気絶した。


⸺⸺


 気絶から復帰すると私の悲鳴を聞きつけた皆がレオンの個室へと集まっており、レオンとジェイミがいつものように喧嘩していた。


「だから連れ込んでねぇって何度も言ってんだろ!?」

「レオンのバカ! スケベ! 変態! 人でなし!」

「てめぇこそちょっとは人の話を聞きやがれこの勘違い猪突猛進野郎!」


「えーっと……」

「おっ、渦中のお姫様のご生還だぜ」

 私が戸惑っていると、楽しそうな顔のマルクス様が気付いてくれた。

 その瞬間ジェイミがすごい形相でベッドに座る私へ迫ってくる。


「さくら! ごめんね僕がもっと側についていれば良かった……!」

「ひゃぁっ、ジェイミ、近いよ……!」

「あっ、ごめん……」


 ここでマルクス様が、隣で突っ立っている虎丸さんの背中を押した。

「ほら虎丸。てめぇ昨日宿屋見張ってたんだろ? 本当の事を言ってやれ」


「……22時前、さくら殿が部屋から出てきて猫の姿になり、レオンの部屋を訪ねていた……。その後気配が睡眠へと変化。すぐに寝たものと思われる。ちなみにレオンも就寝したと思われる22時半頃、さくら殿の魔力の反応があったため、夢の中で獣石を発動してしまったのではないかと推測される」

 と、虎丸さんが証言した。


「えっ!? さくらが自分でレオンの部屋に行ったの……!?」

 ジェイミは白目を向いて、口をあんぐり開けたままベッドへ倒れて動かなくなった。


「虎丸もマルクスも分かってたんだったらもっと早く言えって!」

 レオンの怒りの矛先が今度はマルクス様と虎丸さんへ向く。


「いやぁ~、ジェイミってさくらの事になると視野がギュッて狭くなんだな! おもしれぇってなって虎丸の口止めしてた」

 マルクス様はそう言って鼻をほじっている。

「主の命ゆえ逆らえず、かたじけない……」


「マルクスてめぇ……殺す……!」

「レオンー! だめー!」

 私は大剣を構えるレオンに必死に張り付く。そして、あることを思い出す。


「っていうか、早く昨日の建物の所に向かわないと! みんな何してんの!」

「お前が撒いた種だろうが!」

 レオンが即ツッコミをし、マルクス様は大爆笑をしていた。

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