第18話 妄想同盟

 昨日は散々な目に合ったけど、クロードから“獣石じゅうせき”っていうのをもらうことができた。


 まん丸で透き通った綺麗な赤色のそれは、周りに銀の装飾が施してあって、ペンダントのように首から下げることができた。


 クロードはてっきり玉のまま渡してくると思ったから意外な気遣いにびっくり……って思ったら、どうやらこれを作ってくれたドワーフさんのセンスらしい。


 そりゃそうだ。女の子へのプレゼントをこんな可愛く出来るなら、昨日のあのぱふぱふは絶対にやらないはずだ。


 でもおかげでクロードの鈍感さが分かり、逆に彼と話しやすくなった、そんな気はする。


⸺⸺


 私は今日も2階の廊下を“魔導まどう掃除具”で掃除していく。なんか変な名前だけど、つまり掃除機のことだ。


 そしてみんながお仕事に出かけている間は掃除で部屋に入るのを許可されているので、次々に部屋を掃除していく。


 みんな意外に片付いていてキレイな部屋なので、私も見習って自分の部屋の片付けは怠らないようにしている。


 ある1人の部屋を除いては。



⸺⸺


 その1人とはリュカである。

 彼の部屋はいつもあちこちに本が山積みになっていて足の踏み場がない。

 何の本かは気にしたことがないけど、彼は勉強家なんだろうか。


 ちなみにリュカのような魚のヒレが耳についているのは“クラニオ族”というらしい。水中で呼吸はできないけど、息はめちゃくちゃ長くもつんだって。

 何といっても耳のひらひらが大きなイヤリングみたいで、とてもオシャレな種族だ。


 だというのにリュカの部屋はなんでこうも散らかっているのか……。



 私はその問題のリュカの部屋をバンと開けて掃除をしようとする。すると……。


「わぁっ! さくらいきなり開けないでよ!」

 リュカが泣きそうな顔で本を抱きしめて震えていた。


「あわわ、ごめんリュカ。今日休みだったっけ……」

「うん……。はぁ、今良いところだったのに……」


「ん?」


 リュカにそう言われて彼の握りしめている本を見ると『王宮学院魔道科』と書かれていた。


「えっ……“がくまど”!?」

「何それ……」

 リュカは泣きそうな表情のまま答える。


「王宮学院魔道科の略称だよ!」


「さくら……この本知ってるの?」

 リュカの表情はパッと明るくなる。


「知ってる……ってか、私の世界では“乙女ゲーム”だったから本ではないけど……」

「乙女ゲーム?」


 ここで私はリュカへ乙女ゲームとは何たるかを熱弁する。


⸺⸺


「うわぁ……映像や声までつくなんて、めちゃくちゃ面白そう……いいなぁ……!」

 リュカは今まで見たことのないような楽しそうな表情で私の話を聞いてくれた。


「でもこの“魔法本”っていうのも誰を選ぶかで続きの展開が瞬時に変わるのすごすぎるんだけど……」


「でしょ? さくら、良かったらそれ貸してあげるよ」

「ええっ、いいの!?」


「うん、また感想教えてよ」

「うわぁ~、リュカありがとう! 絶対感想言いに来る……!」



「ねぇさくらは、こんな僕の趣味を見ても馬鹿にしないんだね……」

「何で!? むしろ近い感性の人がいて嬉しいよ!?」


「でもさ、僕男なのに女性向けの恋愛小説が好きだから……」

「恋愛小説が好きなのに男だとか女だとか関係ないよ!」

 私は食い気味にリュカへと詰め寄る。


「さくら……ありがと」

 リュカは驚いた表情から一変して優しくはにかんだ。

 うわ……リュカもなよなよしてなかったらアイドル顔だ……。可愛い……。


 ここでリュカは思い出したように1冊の魔法本を取り出す。

「そういえば……僕、執筆もしてるんだ。最近書こうと思ってたやつ、良かったら読んでよ」


「すごっ! いいの!?」


「うん、さくらは特別。でもこの家の誰にも言わないでね」

「分かった! 絶対言わない!」


 私は勢い良く返事をすると、受け取った本を早速開いてみる。


「あれ? 白紙だ……」


「そりゃまだ書こうと思ってるだけだから。僕がこっちに執筆できたらそっちに反映されるから。本が緑に光ってたら更新された合図だから読んでみて」


「魔法の技術すごくない!? でもありがとう。楽しみにしてる!」


「うん、さくらは妄想同盟の盟友だから。お前のために頑張るよ」

「なんか勝手に同盟組まれてる……」


 しかも“お前のために頑張るよ”は萌える!


 

 そして私がそろそろ掃除に戻ろうと立ち上がったときだった。


「うわっ!」

「さくらっ!?」


 ずっと正座してたせいで足がよろっとして前に思いっきり倒れ込んでしまった。


「ふぇ……こけちゃった……ん?」


 なんか違和感を感じて下を見てみると、こけたときにリュカを下敷きにしてしまったらしく、私の谷間に顔が埋もれた彼の顔を発見した。


「わぁぁっ! リュカごめん……!」


 慌てて起き上がって彼の顔を解放すると、彼は顔を真っ赤にして鼻血を出して気絶していた。


「た、大変……!」


 必死にリュカを介抱してて気付く。

 私もみんなにこうやって心配させてしまってるのか……。

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