第10話

いつもよりかなり早い帰宅に妻は驚いた顔をしている。

「どうしたー?熱でもある?それともとうとう仕事辞めてきた?それにしては複雑な顔してるけど」

洞察力のある妻には隠し事は何もできない。

コンディションが悪いときは強制的に寝かしつけられるし、病院に引っ張って行かれる。

「実は…」

全てを聞いた妻は大爆笑している。

「まさか、駆が戦隊もの?」

腹を抱えながら未だに笑っている。

「ビビりで真面目と優しさだけが売りの駆が」

男気で言えば、目の前で笑っている妻の方が多いだろう。頭もよく、性格もよく、後輩に慕われる自慢の妻である。

ブラック企業で頑張れてきたのも彼女のおかげだ。

「それにしても、今放送されている戦隊ものも、モデルケースを元にしてるなんて、面白すぎる。その選抜戦術部隊の課の人たちも突飛なこと考えるよね。

一年後の駆がモデルの戦隊もの絶対録画しよ!」

おおらかな性格はありがたい。

「ちなみに、駆、カラーは何色なの?」

戦隊ものといえば、メンバーカラーだが、

あれは、放映の時の問題なので、全員均一薄いグレーの戦隊服である。

その色を見たとき、妻は少し悲しそうな目をしていた。

「ぜひ駆にはピンクを着てもらいたかったな」

人のこと何だと思ってるのか。

「え、つまり変身のポーズもなければ、名乗りみたいなのもないの?」

妻の投げ掛けは、子供のころ見た戦隊ものの知識をフルで使っている。

「ないよ。そんなものあったら恥ずかしすぎるじゃないか」

「えーー!!つまらないー。

心優しきマーメイドピンク かける!ってやってほしかった」

妻のなかでは、完璧なヒロインポジションに落ち着いたようだった。そんなの言わされたらもう外を歩けない。その後、妻が片っ端から今までの戦隊ものの作品を見始めたのは何の嫌がらせなのか。

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