四者四様(よんしゃしよう)
@ku-ro-usagi
読み切り
私ね、常々、幽霊とか視える人って、みんなどんな風に視えるのかなって思ってたんだ。
デートでドライブした帰り道。
夕方前くらいで、まだちょっと物足りなかったから、のんびり峠道を通って帰ることになったの。
峠を登りきる頃に、狭い車道とガードレールしかない道の先に、ピンクのセーターと白いスカート姿の若い女の子が一人で道の端を歩いてんだ。
頂上の方に向かって。
「え?こんなところを徒歩で?もしかして彼氏と喧嘩して置いていかれたとか?」
と思って、もう陽も暮れかけてるし、運転してる彼氏に、
「ね、停まってあげてよ、せめて街中まで乗せてあげようよ」
って言ったのに、彼氏、私の言葉をガン無視して通り過ぎた。
むしろアクセル踏みこんでさ。
「うわ、こいつ面倒を背負いたくないんだ、薄情な男だ」
って彼氏に失望して、彼氏は彼氏で何も言わなくて。
そのままお互い無言で峠降りて街中に出てから、
「君って、優しいんだね」
って言葉とは裏腹に引き気味の横顔で言われた。
彼氏曰く、腐った肉の塊がボロボロの布を巻き付けて、ガードレールに縋るように剥き出しの足骨っぽいものを引き摺って、ズルズルと歩いてたって言われた。
一刻も早く逃げたくて必死だったのに、私に、
『ね、停まってあげてよ、せめて街中まで乗せてあげようよ』
そんな事を言われて、正気なのかと若干パニックになりかけたって。
どっちが見たのが正解なのかは未だにわからないし、
「視えない」
「霊感ない」
って思ってる人も、案外視えてる人だったりするよね、私含め。
私が初めて幽霊っぽい人みたのは、生理前で沸騰したヤカンみたいに発情してて、貪るようにエッチなDVD観てた時だよ。
その時に観てたのが定点カメラバージョンでね。
あぁ、カメラ固定がされてるの。
男優と女優さんが絡んでたんだけど、部屋の端に女の人が立ってたんだ。
普通にカットソーと地味なタイトスカートとかだったと思う。
ベッドの方を見るように、カメラに対して横向きに立ってて、演出かとも思ったけど、観てたのは別に特殊なジャンルでもなく、女性向けのラブラブエッチなはず。
間違っても、
『嫁に見られながらの背徳セックス』
みたいなタイトルじゃなかった。
それで気になって、その人をよーく目を凝らして見たら、その女の人、どうにも向こう側の壁がなんか透けて見えるし、微動だにしないの。
でも絶えず映ってるから、嫌でも視界に入ってくるし、集中できないでいたの。
それで、
(もーっ)
ってモヤモヤしてたら、段々、段々ね、その透けてる女の人が、ゆっくりこっちを振り向いて来てたんだよ。
気付かないくらいゆっくりと、でも確実に。
身体ごと。
気付いた時には結構こっち向いてて、お尻から背中がぞわぞわっとして、
「あ、これ、なんか、完全にこっち向かれたら凄く良くないやつっぽい」
って、思う前にね、もう気付いたら手が勝手にリモコン掴んでTV消してた。
沸騰してたヤカンは、一気に冷水にまで温度を下げられたよ。
それでね、少しして落ち着いてから調べたら、そのAVに出てたのは、女優さんは勿論、男優さんも、結構人気のあるイケメン男優さんだったんだけど、あの作品を最後に、いきなり引退しちゃってた。
もしかしたら、あの透けてた人と何か関係あるのかなって。
え?今もAV観てるか?
そこなの?
うん、普通にたくさん観てるよ。
たまにそれっぽいの視えるけど、最近はもう視えても全然気にしないで絡みに集中してる。
むしろ邪魔すんなって思うくらい。
何事も慣れるもんだね。
私は、正確に「視えた」のかは分からないんだけど。
浮気した旦那と、仲直り旅行に行ったんだ。
その日の夜中に、同じベッドで眠る旦那がうなされていて、その息苦しそうな酷い呻き声で目が覚めたの。
私はその時たまたま背中を向けて寝てたから、どうしたのかと振り返ったらね、仰向けの旦那に女が馬乗りになって旦那の首を絞めてた。
怒ってたり恨み辛みの表情もなく、無表情で淡々と作業みたいに。
私には、確かにその人は見えているのに、その息遣いとか、体温とか、重さ、それに空気感が全くなくて、
(生きている人ではなさそう)
な事は分かった。
その人は、私が見ている事に気付くと、別にこちらに襲い掛かってくるわけでもなく、ただ、苦しむ旦那の首から手を離すと、
「バイバイ」
って感じで、無表情のまま私に片手を振ってから消えた。
その人は、何だか見覚えはあるのに、どうしても思い出せなくて、私はそのまま寝てしまった。
朝に起きたら、旦那は先に起きていた。
もうベッドに腰掛けて、こちらに背中向けてスマホ見てたから。
少し安堵して、
「おはよ」
って声を掛けるのと同時に身体起こしたら、物凄くびっくりされてね。
そりゃびっくりするよね。
変に慌てて、旦那はスマホをベッドの上に落としたんだけど、落ちたスマホの画面での中で、旦那は早くもね、新しい浮気相手と、
「早く会いたい」
的な朝の挨拶を交わしていたんだから。
それで、
「あっ」
って思い出したの。
ショックよりも、何よりも、
(あぁ……そうだ)
夜中に旦那に馬乗りになって首を絞めていたのは、
「私」
だった。
うん、大丈夫、旦那とはその後すぐに別れたから。
私は、私自身の事じゃないし、幽霊とかでもないんだけど、おやつ感覚で聞いて。
1年前まで付き合ってた彼氏がね、3歳年上のお姉さんことをよーく話してて、とても仲がいいみたいだった。
なんか話を聞いてると、お姉さん、非の打ち所がない感じで、正直、少し引け目を感じちゃうくらいだった。
でも、それ以上に彼氏の顔はタイプだし、優しいし、気も合ったから楽しく付き合ってた。
それに私みたいに、姉弟共にどちらにも関心なし、よりはね、仲良しな方がいいのかなって。
お付き合いも順調で、1年くらいして、彼氏からね、
「一度、実家に来てみない?」
って、誘われて、喜んで連休中にお邪魔したんだ。
それで、そこで知ったんだけど、彼にお姉さんいなかった。
別に亡くなったとかじゃなくて、彼氏はずっと一人っ子。
実家では、普段はあれだけしてくれていた
「お姉さん」
の話なんか欠片も出なくて。
でも、帰る時に2人きりになった途端、
「姉さんも、君を歓迎していたね」
って嬉しそうに目を細めていたんだ。
私は、その彼だけに見えている彼のお姉さん、彼の世界観、彼の見えている現実に付いていくことはできなくて、ほどなくしてお別れした。
視え方も、千差万別。
四者四様(よんしゃしよう) @ku-ro-usagi
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