第4話
現れたのは、岩の巨人。ゴーレムとか言われている生きた岩石の魔物だ。
「ちょっと、こんなの倒せるの?」
動きは遅いが、近づけば致命的な重打が襲ってくる。見た目通り硬いので刃物なんて通らない。
しかも一度敵と認識されてしまうとどこまでも追いかけてくる。
倒すことができれば大きな魔晶石が手に入るのだが、それでもその強さには見合わないと言われている。
誰も手を出さず放っておかれているような魔物だった。
「ユイさん、魔法の準備を! その間はぼくたちが守ります!」
「う、うん!」
ユイが詠唱をはじめた。魔力が炎を形作っていく。
ゴーレムは腕を振り回し、ユイに狙いを定めた。
しかし、その背後から男が攻撃を仕掛け、盾持ちが攻撃を防ぎ、支援魔法使いが何かの補助魔法を味方にかけている。
ゴーレムはその場から一歩も動けていなかった。
「いっくよー! ふぁいやーぼーる!」
そこへユイの大火球が飛んできた。
危ない! ミーシャがそう思ったときには全員が盾持ちの後ろに隠れていた。
ゴーレムに魔法が命中し、一瞬の静寂の後、岩石の破片が飛び散った。
離れて見ていたミーシャのところにまで石が飛んできた。
近くにいた彼らはどうなったのか。
なんと、全員が怪我もなく無事だった。あの一瞬で、どうやったのかユイのことさえも破片から守ったのだ。
「すごいです! ゴーレムをたったの一撃で仕留めるなんて、ユイさんの魔法はやっぱりぼくの思っていた通りのものだ!」
「え、ええ~? そんなに誉められると照れちゃうな~」
ユイは、でへへと締まりなく笑っている。
ミーシャは男に向かって反論した。
「こ、こんな危ないこと何度も成功するわけないじゃない。盾の防御が間に合わなかったら――」
「大丈夫ですよ。短時間であれば防御魔法が守ってくれますし、装備の力もありますから、もし間に合わなくても大した怪我はしません。全部、ユイさんのために用意したんですよ」
「ふ、ふええ~!? ユイのために?」
「はい。ぼくたちのパーティーに入ってもらえませんか! あなたの力が必要なんです!」
どうやって部屋に戻ったのか覚えていない。
ただ、ユイがこれまでに見せたことのないような嬉しそうな顔をしていたことだけは、はっきりとミーシャの記憶に残っていた。
翌日、ミーシャはユイを半ば無理矢理にクエストに誘った。相手はゴーレムだ。
「ねえミーシャ、お顔がこわいよ。それに、二人だけでなんて大丈夫かなあ……」
ユイに言われて、ミーシャは無理矢理に笑顔を作った。
「大丈夫よ。わたしに任せて! ユイのことはわたしが一番よく知ってるんだから。昨日のあいつらは都合の良いことばっかり言ってユイのことを利用しようとしてるの。騙されちゃだめよ!」
「そうかなあ。ユイはいい人だなって思ったけど」
ユイはミーシャの言うことであればなんでも信じる……はずだった。長い時間をかけて、信頼を勝ち取ってきたのに。
その努力が、たったの一日で覆された。
失望と、怒りの感情がミーシャの心のなかに渦巻いていた。
「ミーシャ!?」
ユイの声に、ミーシャははっと我に返った。
ゴーレムの巨腕が降り下ろされようとしている。ミーシャは飛び退いた。あやうく叩き潰されるところだったと背中に冷たい汗が流れる。
ミーシャはユイに向かって叫んだ。
「大丈夫だって言ったでしょ! わたしのことは心配いらないから、早く詠唱して!」
「う、うん!」
ユイの声には緊張が感じられた。
いつも通りに動けば大丈夫、ミーシャは冷静さを取り戻そうと努めた。
ミーシャは無我夢中でゴーレムの攻撃を回避し、隙をついて短剣で斬りつけた。刃物による攻撃が無駄とわかっていても、ミーシャが攻撃を仕掛けないとゴーレムがユイに向かってしまう。
愛用の短剣は、斬りつけるたびに刃が欠けてボロボロになっていた。もう修復すらできないほどに。
戦いながらミーシャは思った。ゴーレムを倒すことでユイを引き止められたとしても、また同じことが起こればユイはきっと離れていく。こんなことをして、意味があるの――?
「ミーシャ! いくよっ! ふぁいやーぼーる!」
「えっ?」
一瞬、判断が遅れた。
ユイの魔法とゴーレムの腕が、挟撃のようにミーシャの逃げ場を奪っていた。
回避――どこへ、間に合わない!?
後ろに跳……駄目! 少しでもダメージをっ、防御――?
ゴーレムの腕が、ミーシャの短剣を粉々に砕き、そのまま右腕を粉砕した。
腕の内部が破裂したような熱い痛みがミーシャの体を貫いた。
ミーシャは気絶しそうな激痛を感じながら、それで終わりではないことを思い出す。
ユイの大火球がゴーレムに命中し、ミーシャの周囲の空気がゆらりと不気味に歪んでいく。
「ミーシャぁ!!?」
ユイの叫びと共に、赤い炎がミーシャの体を包み込んだ。
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