「海」を題材にした詩

たんぜべ なた。

チェロ独奏曲 「海月(クラゲ)」

 潮の引いた桟橋に

 茜色に染まった海を眺め

 チェロと共に座る男が一人


 潮の引いた岩場の奥には

 凪いだ海が広がる


 凪いだ海と干上がった岩場の境界で

 波がチャプチャプと遊んでいる


 その音に誘われるように

 その音を真似るように

 チェロの弦を指で爪弾きはじめる男


 チェロから流れる音色に耳を澄ませ

 目を瞑れば


 二匹の子犬が

 ジャレ合っている姿が見える



 やがて潮は満ち初め

 岩場の境目で戯れていた波も徐々に

 男の足元に近づいてくる


 寄せる波の音に合わせるように

 男も弦を爪弾くことを止め

 弓を手に取る


 その音色は

 まだ歯切れよく

 波が遊んでいた余韻を残す


 その音色は

 頬をくすぐる風のように

 耳障りが良かった



 いよいよ

 打ち寄せる波が

 その背に桟橋と木舟こぶねを乗せる頃

 男の前に現れるのは『満月』


 満月と男の間には

 煌々と照らし出される一本の路


 バージンロードのごとく

 光の絨毯みちを歩むように

 壮麗な音色を響かせるチェロ


 凪いだ海に響き渡るチェロの音色

 桟橋や木舟から聞こえる物音も

 曲のアクセントに取り込んで


 いよいよ、演奏もフィナーレを迎えようとした矢先

 一匹の魚が水面を割って飛び上がる


 ポチャン!


 その音で演奏は突然終了した



 ゆっくりと立ち上がり

 月と海に向かって深々と頭を下げる男



 チェロ独奏曲 

海月クラゲ」の

 誕生


 Fin

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「海」を題材にした詩 たんぜべ なた。 @nabedon2022

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