No aim, a long way 01 討伐と功名

 傭兵くずれの野盗どもが10人ほど、その山に住み着いたのは3年前のことだった。農民らに抗うすべはなく、治める代官も討伐隊が2度失敗したことで及び腰になってしまった。

 最後の頼みと近隣の寒村の金をかき集めて、領都の冒険者ギルドに依頼はしたのだったが反応は無いままで、取り下げるにも片道3日かかるため依頼は放置したままというのが現状だ。


 三番目の村のおさの娘ナキビがその日、御輿に乗せられて山に向かった。供の者は酒や農作物を背負い牛を連れている。野盗どもの略奪をかわして穏便に済ますため、村同士が持ち回りで貢ぎ物をすることに決めたのだ。

 野盗の襲撃にあっては女子供も攫われた。さんざん嬲りものにしたあとは娼館や奴隷に売られる。ナキビはその身代わりになる生贄だった。「お前が先に立てばこのあとも誰も文句は言えなくなる」と親に言われればナキビは断れない。


 夕闇の迫る寂れた古堂にナキビは貢ぎ物と一緒に置き去りにされた。静寂を破って古堂の後ろからノックが聞こえる。

「……こっちは準備万端だ。安心しろ」

 ナキビにそう告げたのは領主の三男坊、アタラギだった。本来は冷や飯食いの立場だが冒険者としての腕っ節には自信がある。兄たちが出来ないでいる野盗討伐という戦果を上げればまだ後継者争いを巻き返せるという野心があった。

「それで……何人集まったの?」

「6人。だが全員【剣持ち】の冒険者だ。魔法使いも一人いる」

 少ないとは思ったが、身分証がタグでなく短剣ダガーならばギルドに一人前と認められた冒険者ということだ。それなら何とかなるかもしれない、とナキビは思い直した。

「あなただけが頼りなのよ。殺されて死ぬのも惨めに生かされるのもまっぴら」

「落ち着け、もう少しの辛抱だ。……必ず助けるとも。手付け・・・も貰っているからな」

 下卑たアタラギの笑いに怒りがこみ上げてくるが今のナキビには耐えるしかない。

(ふざけるな! 好きであんたに抱かれたわけじゃない。アタラギもこんな村も大嫌い! ……とにかくここを切り抜けるのよ。裏切った? そんなのはもうどうでもいい。先のことは生き残ってから考えればいい……)


 森の深い闇の中、古堂に近づいてくる野盗の松明の火が揺れる。嬌った笑い声が近づいてくる。


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