No chaser 10 茶番(いとし)さと嫉妬(せつな)さと卓袱台返しと


 央都の貴族の間では決闘は認められた解決手段である。そこには本来上も下もないのだが、頓死したのが3傑の孫ではそうもいかない。剣技で鳴らした一族が格下の貴族に恥をかかされた・・・・・・・となれば尚更だ。

 貴族連中がメンツやら損得やらパワーバランスやらを口にして、騒動はもはや本人らの思惑そっちのけでたちまち大きくなっていく。 

 加害者・・・となった側の貴族が別の3傑、<水>の【鯨雨】に泣きついたことで事態はさらに泥沼化した。しかし結局は<地>の【季羽】の仲立ちで、【鎧袖】は加害者の一族から誰か一人、辺境に追放することで格下貴族の無礼を許す・・・・・という落としどころで決着となった。


 しかしくだらない騒動で身内から追放者を出すのを渋った加害者の貴族は、再び【鯨雨】に相談を持ちかけた。そして<風>の貧乏貴族に金を掴ませ、『生贄』役を押し付けることを思いつく。

 そうして『生贄』を探すうちにひとり、更級家という貧乏貴族の娘、鳳鳴が「その役は女でも構わないのでしょう?」と名乗り出た。

 だが鳳鳴が殊更に美しい娘だったがために、『生贄』の災難はリンドに降りかかることになったのだ。


 甲茂利家の歴史は古く御使いの直系を自称するほどだった。『家宝』には異才を見抜く浄玻璃鏡を所蔵しており、そのことは<風>の系譜であっても周囲が一目置く存在となっていた。そして【祐久戸ユグド】の貴族の子供には、浄玻璃鏡でを魔力の格や性や異才の吉凶を観る通過儀礼ならわしがあった。


 甲茂利家には九龍人くらんど麒麟人きりんどの兄弟がいた。跡目の問題で一族が割れる中、 その決着は浄玻璃の儀に委ねられることになった。

 その一方で九龍人は鳳鳴に惹かれるようになっていた。ある日九龍人はつのる想いを鳳鳴に伝えたのだが、その時にはすでに彼女の辺境行きが決まってしまった後だった。なおも食い下がる九龍人に鳳鳴は「他に好きな男がいる」と苦し紛れの嘘をついた。そして九龍人はその嘘を真に受けて、しかも何故かその相手を麒麟人だと思い込んでしまったのだ。

 ……う~んこの時点で二人の頭もかなりお花畑だったな。巷に流行る恋愛小説うすいほんの読み過ぎだったんじゃないのか?


 鳳鳴を手放したくない九龍人の執着に、次代の甲茂利家を取り込みたい【季羽】の派閥が接触してくる。そして九龍人は【季羽】の奸計に乗り麒麟人を罠にかけた。

 浄玻璃の儀の最中に九龍人は麒麟人を味方の近習に捕らえさせ、魔道具で拘束した後・・・・・に麒麟人の異才が『いまわみの才』だったこと、自分の異才がそれを看破したと訴えた。さらに【季羽】の配下が扇動してそれを人々に信じ込ませた。

 そして九龍人は鳳鳴のかわりとして、<真名>を奪ったリンドをまんまと辺境に追放してのけた。そして九龍人は鳳鳴と末永く幸せに暮らしました……そんな話が通る道理わけがあるか!


 ……あ~、南郷殿に聞いたのを反芻しているだけでも腹が立ってきた! とりあえず九龍人は見つけたら斬る。見敵即斬、見敵必殺だ! たぶん鳳鳴もな。

「鳳鳴もなのかい? 彼女は許してあげようよ」

 何を言っている? 優しすぎるにもほどがあるぞ、リンドさん。

「いや、会ったことも無い人を殺したら駄目だよ。それに人に痴情のもつれとか噂にされるのも嫌だし。清流セイが僕を好きなのは分かるけど」

 ばっ、バカぁ! 何でそんな話になるのだ? いいから手を放せ! お、お茶が冷めてしまったな、入れ直してこよう。 

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