No chaser 09 4/6の神話

 御使いのもとに人が集まり土地は栄え、国が生まれた。御使いの6人は<地><水><火>を物派、<木><金><雷>を心派と称し、森羅万象を異才で従えることができた。


 やがて御使いたちも老いて死を迎え、継ぐ者に後の道を託した。当時の後継者は村々を巡回し異才を発揮してあまねく人々に恩恵を伝える暮らしをしていた。

 しかし時代を経て中央に都が作られ、後継者は【祐久戸ユグド】に籠もるようになった。人々の間には貧富が生まれ、恩恵を請う者は貢ぎ物をたずさえて央都を訪れるようになっていった。


 後継者が【祐久戸ユグド】に籠もるようになって恩恵が国の隅々まで行き渡らないようになると、後継者はそれを補うため魔道具を作った。定型化した恩恵を魔法にして封じた魔道具を村々に租税を代償に貸し与えた。

 魔道具を作ったのは後継者の中にも異才の強弱や持たない者が生まれるようになったせいもある。これにより本来は後継者となれない者も【祐久戸ユグド】に居座ることになった。後継者たちは一族で結束して閥をつくり貴族を称するようになり、貴族どもはさらにその権力を強めていくことになる。


 後継者の中でも心派<雷>に属する者は、他の人間の異才や恩恵を見て導く巡回神官だった。【祐久戸ユグド】が作られても旅から旅を生涯とする生き方は変わらず、どの閥にも加わらなかった。


 しかし神官のその異才は力の衰えを隠したい貴族にとっては脅威と映った。異才や恩恵を覗く魔道具を作らせ、その後に貴族どもは結託して<雷>を【祐久戸ユグド】から締め出し、人々には魔道具をたてに<雷>属と関わることを禁じた。そうして<雷>は人々の記憶から抹殺されたのだ。


 その後<地><水><火>の物派は、残った<木><金>の心派に対しても弾圧を強めた。逆らう者は処断し、魔道具を作るだけの下級の存在であるかのように歴史を改竄・・した。そして長い時間とともに御使いの伝説は<地><水><火><風>の4人だったとして現在にいたるというわけだ。


 そして今回のリンドの追放は、【祐久戸ユグド】の魔法院を牛耳る3傑の一人、<火>の【鎧袖】の息子の三男(つまり孫)が酒の席で格下の貴族に決闘を無理強いした上に、決闘の前に楼閣から落ちて頓死したことに始まる。……まあ、決闘は始まってもいないというのが笑いどころなのだろう。うん。

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