No chaser 07 それは自分で言うがよかろうなのだ!

「君に出会えて良かった。セイ、これからもずっと一緒だよ?」

 そう言うリンドの声は少し震えていた。泣いているのか笑っているのか……それを確認したくても後ろから抱きしめられたままの今のワタシには無理な注文だ。

 リンドがどうして下洛貴族となって辺境ここに来たのか、彼はようやくワタシに話す気になったようだ。経過いきさつは屋敷に勤めるようになってから南郷殿にも聞いていたのだが、それとは別にリンドが自分の口で言うことに意味がある。


 この【祐久戸ユグド】という国は魔法使いの国だ。その中でも強い力を持った者はいつしか自らを貴族を名乗り、貴族が暮らす城郭を央都と呼ぶようになった。対して平民たちが暮らす周辺地域を総じて辺境と呼ぶ。

 しかし華々しい舞台の裏で、央都は貴族同士が日夜権力闘争を繰り広げ、権謀術数が渦を巻く魔都でもある。


「まあ仮にそうでなかったとしても、僕は央都あそこでは生きていけなかったかもしれないね。僕の格はひとえで、性はハズレの<風>だったから」

 ワタシからすれば、それがそもそも間違っているのだがな。ハズレだとすればこの状況・・の説明がつかないだろう?

 リンドは過去の愚物どもに歪まされた常識すりこみの犠牲者だ。それを盲信した【祐久戸ユグド】の貴族連中の権力争いの生け贄にされた。偏見に毒され増長した兄に陥れられ辺境に追放された。忌むべき存在と烙印を押され一言の弁明も許されずにだ。まったくこんな腐った国はとっとと滅ぶがよかろうなのだ!


「君に出会えて良かった。セイ、これからもずっと一緒だよ?」 

 自信を持て。今のリンドはもう奪われ続けたひ弱な出来損ないではない。籠に捕らわれたカナリヤではない。自分の翼で空を飛び、自分の爪で狩りをする鷹になったのだ。

 それにワタシにもやりたいことができたからな。復讐するなら手を貸すのもやぶさかではない。だらだら生きてしわくちゃになるより、お高くとまった貴族連中の横っ面を命がけで張り飛ばすほうがずっと痛快でましな生き方だ。 【漂流の民】であるワタシがここでリンドに出会ったのも、ある意味必然のことなのかもしれん。


 ……あーしかしこの状況・・は少し拙いことになっているな。

 ワタシとリンドの目の前には家が建つほどの広さの真っさらな荒れ野が出来ている。原因はリンドの魔法の暴発やりすぎのせいだ。もしブレスを吐く大型の魔物が襲ってきたとか勘違いされて山狩りとかになったら面倒なことになるぞ。絶対に。

「だからその……セイも僕と一緒に南郷に謝ってくれるかい?」

 なっ、それは自分で言うがよかろうなのだ! ワタシを巻き込むんじゃない!

 初めてだから加減が分からなかった? うんと言ってくれるまで離さない?

 何を言って……こ、こらぁ! こんな事に付与術の身体強化を使うんじゃない! 離れて……ああもぅ! 口で「ぎゅー」とか言いながら腕に力を込めるなァァァ!

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