No chaser 06 つまりはそういうことなのだな
その日もワタシは結界の外に狩りに出ていた。しかし今日は獲物にありつけそうにない。それというのも後をつけてくる人の気配が辺りにだだ漏れだからだ。隠せないにしてももう少し何とかならないものか……。
おい、リンド! いいからこっちへ来てくれ。やりにくくてしょうがない。
「気づいてたのかい? だったら早く言ってくれればいいのに」
放っておいたら歌でもうたう勢いだったしな。あっ、さてはわざとだな? そこでできもしない口笛を吹く真似をするな!
「ごめんね。一度セイの狩りを見たかったんだ。僕は剣も魔法も全然だからね」
それでワタシの技を見て覚えたいと思ったのか。教えるのはいいが、ワタシの技はリンドが期待するようなものじゃないぞ。
「えっ、投げ矢とか手槍じゃないのかい? 獲物の傷の具合からそうだと思ってたけど」
残念ながらな。そうだな、ちょっとあの木を見ててくれ。
そうしてワタシは袂から取り出した
「えっ、今のが? 構えもしなかったから全然分からなかった」
リンドが木に駆け寄って穴に触れてみる。
「これは……石、なのかい?」
庭で集めた玉砂利に【気】を流したんだ。ワタシの技は投擲術。印地術ともいうな。だが本来は裏芸、暗殺者の使う技だから貴族連中には敬遠されるだろう。
「でもセイはやっぱりすごいよ! 前の笹に時もそう思ったけど」
だ、だからその顔で迫られると困ると言ってるじゃないか! その……色々と!
そ、それで? リンドは剣もと言ったが他の武器はどうだ? 弓は?
「うーん、南郷に前にちょっと教えてもらったけど……僕には難しくてね」
そうか。……ああ、そう言えばアレがあったな。
ワタシは【七つ道具】からその武器を取り出す。これならリンドでも使えるだろう。
「えっ? 何だい、それ」
これは【印地弓】、異国ではパチンコやスリングショットと呼ばれているものだ。
「ふうん、あまり見たことが無い武器だね」
これは父からもらった【印地弓】を見てワタシが自作したものだ。
そう言ってワタシは石をひとつ
「いいね! これなら僕でも出来そうだ。やらせてもらってもいいかい?」
ワタシから【印地弓】と玉砂利を受け取ったリンドは早速試し打ちをしてみる。しかしさすがに初見では当たらないようだ。もう一度手本を見せるか。
ワタシはもうひとつ【印地弓】を取り出してリンドの隣に立つ。そして動作をひとつひとつ説明していく。
まず構えは手の甲を上にして横向きに。石は引き革に包んで革ごとつまむように……持ち手は真っ直ぐに伸ばして引き手は口元横まで。こうすれば目と【印地弓】と目標がスリングの延長上に一直線に並ぶ……馴れるまでは強さは変えずに、引き幅を一定に保つようにした方がいい。そして上の
「うん、分かった。やってみるよ」
そうしてコツをつかんだリンドは、ぱしぱしと続けて木に当てられるようになる。意外と筋がいい。
「面白いね! これなら何発でも撃てるよ。でも少し実戦には威力が足りないかな」
ああ、だったらさっきワタシが
「えっ、僕は【気】なんて使えないよ?」
そんなことはない。【気】も
半信半疑でそれを手に取るリンドだったが、構えてみて表情が変わる。
「えっ、なんだろうこれ?
ああそれが感じられるならしめたものだ。そのまま撃ってみろ。
そして勢いよく放たれた石は、ワタシの礫のように木にめりこんで深い穴を開けた。
そうだ、いいじゃないか! ワタシがそう言うと、リンドは信じられないという顔で自分の手を見つめている。
「まさかこんな……だって僕は剣も、魔法だってうまく使えなくて
それは
「溜めて使う……何だか【魔石】みたいだね……あ、ちょっと思いついたことがあるんだけど、試してみていいかな?」
それは構わんが……ん? それは何だ?
リンドはズボンから小さな革袋を取り出し、中から指先ほどの透明な石を一粒手に乗せる。それが【魔石】なのか? それを
ああ、そうか。『人と人は会うべき時に会うべくして会う』ワタシとリンドも……つまりはそういうことなのだな。
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