Count 32 月霊姫と円東寺加護女
黒竜冥王が
「ここまでのようですね。お見事です、ユビキタス様。ああ、今はアーリスター様ですか?」
水晶牢獄を解いたアーリスターに月霊姫がゆっくりと近づいてくる。呼ぶのは何でも構わんよ。お前もその固い口調は止めたらどうなんだ? 「では坊ちゃま」それは許さん! いつお前にそう呼ばせたよ!
月霊姫の手にした南京錠に
「なあに、ずっと中にいたの? 早く言ってくれれば良かったのに。すっかり騙されたわ! もう、鼻血まで出してみっともないったらありゃしない」
タツコさんは少しご立腹だ。月霊姫が頭を下げる。
「申し訳ありません、タツコ様。私が海竜鬼の中に入った時には『計画』も半ばを過ぎていたため、このまま最後までいった方が良いと判断致しました。お許し下さい」
おそらく月霊姫は麒麟人が死んだタイミングで自由に動けるようになったんだろう。それまでは状況がどう転ぶか分からなかったからな。
それで? 【きみなぐ!】やオレたちを巻き込んでの『計画』とやらはどうなったんだ?
「もうじき魔法院の
リアルな処刑の話だったよ! まあそれよりも、そんな
「マスターが『試験』は抜き打ちでないと意味がないと仰るので。それに……」
言い訳は結構だ! ただ今回の件はオレだけじゃなく、巫子芝やタツコさんまで巻き込んでる。明らかにやり過ぎだって事を言ってるんだよ!
「まあまあ、要くんも落ち着いて。加護女ちゃんの無茶振りは昨日今日に始まったことじゃないでしょ? それに
タツコさんにそう言われたらオレも振り上げた拳を下ろすしかない。巫子芝もそれでいいか? ん? うしろの巫子芝のオーラが黒い、だと? 思わずタツコさんも月霊姫も固まってしまう。
「……円東寺ク~ン、ボクも一緒にいろいろ共有してるはずなのにさぁ~、何がどうなってるのか、さぁぁぁっぱり分からないんだけど、どうしてなんだろうねぇ? あはははは……はぁ」
み、巫子芝? と、とりあえず【合一】解こうか? あー、それと何か飲む?
オレたちは魔王城の中庭にあるドーム型のガゼボに移動した。うん、とりあえず場の雰囲気を変えよう。
「ん~、冷たくて甘酸っぱくて美味しい! 円東寺クン、いつもコレ飲んでたの?」
お、おう、気に入ってくれたか? それなら良かった。
月霊姫謹製、蜂蜜梅水マリナードで巫子芝の機嫌が直ったところでオレは話を戻す。
だけど分からないのはクソオヤジの行動だよ。
「あれを持ち出す時に馬、麒麟人様にはいちおう警告したのですが……ハイ、残念デス」
月霊姫がしれっとした顔でいう。何でそこ棒読みなんだよ! しかも馬鹿って言おうとした?
「今の馬鹿の行動は【羅縄】の末期症状でしたから。支離滅裂紆余曲折、マスターでも読み切れません。重要なイベント以外の誘導はせずほとんど手放しでした」
もう隠す気なしかよ……じゃあどのみち破滅は免れなかったってことなのか?
「それでもお二人を【きみなぐ!】に足止めしておくことが最重要イベントでしたのでそこは成功かと。【
おい! オレはついでで死にかけたのかよ!
「最近のマスターはあなたの力量をどこかで確かめたいと考えておいででした。この後のことを見越してのことでしょう。それが丁度良いタイミングで重なった。他にもマスターの行動を【琿虹】の目から逸らすカモフラージュにも利用させていただきました」
結局は
「それは私より直接マスターにお聞きになった方がよろしいかと。じきに来られると思いますので」
あまりぞっとしない話だがな。ん? 巫子芝? どうした黙って。
「うん……ママさんがすごい人だってコトは分かったけど、ボクあんまりイメージ湧かなくて。ねえ、円東寺クンから見たママさんってどんな人なの?」
どんな人? うーん、一言で言うと……エキセントリックな人かな?
「そうねぇ……ワタシにも気さくに話すけど、反対にあまり人の話は聞かないわね」
「言動に垣根を作らない人ですが、敵に認定したら容赦しない人です」
それを聞いて巫子芝は首を傾けてあれ? という顔をする。
「何だろう? それ誰かに似てるような気がするんだけど……」
そのとき庭の一角に転移の魔法陣が浮かび上がる。母さんが到着したようだ。悩むより会えば分かるだろ、巫子芝。
「えっ、まだ心の準備が……どどどうしよう! 円東寺クン! 何かアドバイスをプリーズ!」
アドバイス? うーん……揺れない明鏡止水の心かな?
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