Count 29 SUNRISE

「オジサン、最後に謝ってくれたよ。うん……それにボクのコト、お嬢さんって……円東寺クンのこと、よろしく頼むって……」

 オレを押し倒したまま、巫子芝はオヤジの最期をオレに語った。そうか、最期にようやくクソオヤジから開放されたんだな、父さん・・・

 「それで円東寺クン、ママさんには会えたの?」

 いや、まだここには来てない。そう言うと巫子芝が、がばっと身を起こす。

「えっ、管理者にはなれなかったの? でも飛んで来たんでしょ? じゃあ魔法も使えてるんだよね?」

 ああ大丈夫、ちゃんと管理者にはなれたよ。麒麟人が死んだときの権限移譲先が改竄されてオレになっていたからな。最初から円東寺加護女の掌の上だったのさ……。


 オレは麒麟人が死ぬという状況があり得ないと思って最初からこの選択肢を除外していた。何故なら麒麟人の体内には魔心回路である【羅縄】が埋め込まれているからだ。

 もともと調停者バランサーと【筺庭】は魔法院に識別標ドックタグで管理されている。魔心回路はそれに連動して犯罪や問題を起こした調停者バランサーにペナルティの『枷』を与えるものだが、【羅縄】はそれより凶悪だ。

【羅縄】により麒麟人は超回復させられる・・・・・。痛みや出血は普通にあるが、回復スピードは常人の10倍以上だ。超回復は本人の意思と関係なく自動で発動する。ただし回復といっても肉体が初期状態まで戻るだけのことだ。そのせいで脳にはリセットのダメージが蓄積されていく。記憶障害や解離性人格障害が起こる。体だけが死なないゾンビになっただけで、実態は呪いと同じようなもんだ。

【羅縄】は手術で取り出して解除することもできない。失敗すれば麒麟人が人間爆弾になるだけでなく【きみなぐ!】も同時に吹っ飛ぶ仕掛けになっている。麒麟人の【羅縄】は魔法院の老害ネズミども、【琿虹】が円東寺加護女ネコにつけた首の鈴だ。麒麟人との結婚というだけでは飽き足らずに【きみなぐ!】を人質に取ったのだ。言ってみればそれだけ母さんを恐がっていることの証拠なんだが。

 しかし管理者書き換えプログラムを実行しているときにオレは気付いた。超回復は回数制限が設定されていて、麒麟人が死んだときに爆発するのは【きみなぐ!】ではなく央都の魔法院の中枢コンピュータになっていることに! これは円東寺加護女による【琿虹】へのクーデターだ! 麒麟人の死はその狼煙なのだと……。


 本気なのかよ、母さん。何やってくれちゃってんだよォォ! オレのデスマーチ人生はまだまだ絶賛継続中なのかよ!


「ようやく来たわね。いつまでもいちゃついてないで早く交代して頂戴!」

 駆けつけたオレたちを見てタツコさんがニヤッと笑う。鼻血が出てるその笑顔はちょっと怖い。

 タツコさんは前蹴りで海竜鬼と距離をとって、その場に座り込んだ。

「あーしんどかった! あら、お色直し? じゃあ無事に管理者になれたのね」

 今のオレと巫子芝はユビキタスとアンリミテッドを元にした服装に戻っている。ただし巫子芝にはスパッツをはいている。そこは当然だろ!

 それに巫子芝にも七つ道具を渡した。これでいつでも変身して衣装チェンジが可能だ。


 話をするオレたちを前にして、海竜鬼も手を止めている。

「えっ、どういうコト?」

「なんか様子が変わったのよ。楽しんでる・・・・・とでも言ったらいいのかしら? 格闘技をサンプリングするときに、感情も一緒に取り込んだのかもね。急所とか狙ってこないし。まあ一番は体力が有り余って余裕ぶっこいてるせいなんでしょうけど」

 それだけじゃなく中の人・・・が変わったからかな……たぶん。

 だったらとっとと終わらせよう。調停者バランサーになった今のオレたちなら楽勝だ。ふっふっふ。

「あ~、円東寺クンがまた【魔王】の顔になってるぅ!」

「何よ、余裕ぶっちゃって。相手は海竜鬼なのよ? どんな作戦なの?」

 そうですね、まあ『高度な科学力はいわば小手先のテクに頼ったポップロック、 野蛮人のタテノリには所詮かなわんでしょう』作戦とでも。マンガ好きの巫子芝でも知らないか? タツコさんは笑ってるけど。

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