「タツコさん、ごめん。ボク、海竜鬼のこと全然考えてなかった」

　それは私もよ。でもこれは予想外だったわ。何故って、目の前の海竜鬼が構えを取ってるんだもの。

　後ろ足に重心を置いて、拳は握らず両腕を緩く前に出している。ムエタイの構えに似てるけど、出した前足は猫足立ちだ。それだけでもケンカ屋然とした天竜鬼とは全く雰囲気が違う。とりあえず私が出て様子を見るしかないか。

　海竜鬼が出す右ローを左脚で合わせる。そこから軌道を変えて左ハイに……って！　同じ技で合わせてきた？　このコンビネーションを知ってる、いや違うわね。天竜鬼と私たちの戦いを見て覚えたんだわ（・・・・・・）！　

　そしてそこからフェンシングの突きを思わせるミドルの連続蹴り。くっ、捌ききれない！　大きく下がって距離を取る。片足立ちで立つ姿が様（さま）になってるわね。

　だったら蹴りを出される前にと、強引に踏み込んで細かくパンチをくり出す。上がったガードの死角から割り込むように膝蹴り。これも読まれてた！　そこから返しの、えっ？　ドラゴンスクリュー？　腕の付け根を蹴ってどうにか難を逃れる。

　何なのこいつ？　こんなの想定外よ！

「タツコさん！」来ないで！　「え？」

　駆け寄ろうとする安里ちゃんを制止する。ごめんね安里ちゃん、大きな声出して。でもここは私に任せてくれない？

「どうして？　ここは一緒に……」

　駄目よ。足手まといになるだけだわ。私のほうがね。

「えっ、タツコさん何言ってるの？」

　悔しいけど海竜鬼は私じゃ相手にならない。だったらやることは決まってる。さっきの天竜鬼のときの五星王の役を今度は私がやればいい……。

　安里ちゃん、よく聞いて。今から私は海竜鬼の技を引き出すための戦いをするわ。それを見てあなたに攻略のヒントを掴んでほしいの。　

「で、でも……一人じゃ無理だよ！」

　聞きわけて頂戴。海竜鬼に対抗できるのはあなただけなの。正確に言えば、恩恵（シェア）をものにしたスーパー安里ちゃんだけどね。

　もちろん私だって、ただの捨て駒になる気は無いわよ。まだまだ安里ちゃんに教えてあげたいこともあるしね。死ぬ気なんて全然ないわよ。フラグ？　上等じゃない。片っ端から叩き折ってやるわ！

「だけど……ボク、ひとつ心配があるんだけど」

　えっ、何か問題？

「もしリアルでも金髪碧眼とかになったら、円東寺クンに嫌われないかな？　ほら、ヤンキーみたいで」

　心配なのはそこ？　ああ、大丈夫よ。要くんはアンリミテッドだった安里ちゃんにもドキドキしてたみたいよ。はいはい「ふにゃ～ん」とか照れるのは後にして頂戴。

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