Count 4 【三なし】巫子芝安里 VS【スマッシュの鬼】 磯島鬼九

「ふざけんな! ただのおかしな天然ボケだろうが。こっちは本場のフルコン仕込みだ。こんなとこでつまづいてられねぇんだよ!」

 一人残った不良リーダーは巫子芝に鋭い視線を向ける。

「俺は格闘技でプロになるために九州から出て来たんだ。ほかの奴とは根性が違うんだよ、根性が!

 伝説の【三なし】? だったらちょうどいい。踏み台んなってもらうぜ! 子猫ちゃんじゃあ少々物足りねぇがな!」

「わ、カワイイ子猫ちゃんって言われたよ? 円東寺クン、どうしよう」

 うん、カワイイとは言ってないぞ。まあ、実際カワイイけど(小声)。


「いいよ。せっかくだから受けてあげる。挑まれたらしょうがないよね」

 巫子芝がオレの腕をほどいて前に出る。……って言うか本当にやれんのか? 何ワクワクした顔でサムズアップしてんだよ!


「百鬼護堂館、磯島鬼九。歴史を塗り替える男だ。覚えとけ」

 小刻みなステップで体を揺らしている。磯島のファイティングポーズはなかなか雰囲気がある。

 しかし名乗っちゃったよ、この人。それ瞬殺フラグじゃないの? 

「ボクは名乗らないよ。ただの巫子芝安里。それでいいよね?」

 そう言って巫子芝はベタ足のまま半身に構えた。


 動かないまま時間が過ぎるも、勝負は一撃で決まった。

「んしょっ!」「がはっ!」

 磯島の鞭のような回し蹴りを踏み込んで直線でいなした巫子芝。一瞬で間合いを詰めて懐に入り込む。そして巫子芝の下から突き上げた掌底が磯島の顎を打ち抜いた。

(見えたぞ。その踏み込みの速さ……お前、長伝寺流だな?)

(内緒にしてね? 強かったから咄嗟に使っちゃったけど、陽堂先生に怒られちゃうから)

 磯島が倒れる前にそんな会話があった気がするが、アーアーボクキコエナイ。

 そしてこっそり戻って来た子分Aに磯島の介抱を頼んで、オレと巫子芝はその場を離れた。


 ……卒業後、磯島鬼九はプロの格闘家としてリングに上がる。【スマッシュの鬼】の異名どおり得意技はスリークオーターからのスマッシュだ。それを警戒して距離を詰める相手は、しかしもう一つの武器である迎撃型アッパー【ライジング】の餌食にされることになる。

 だがこの【ライジング】の完成の裏には、このとき巫子芝安里に長伝寺流【春雷】を食らった経験があったからだと知る者はいない。

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