26文字目 転生前からの関西的テンション

ユプルーク村に戻らず所属元のギルドのある街への帰路を歩み始めたカレンは、自身の新しい相棒のレインを横に並んで様々なことを話した。

時には突っつき合い、時には物を言い合い、時にはどつき合い、時には寄り添い合い、交友を深めていく。

今まで怨嗟の連続を生み出し続けてきたレインの凍り付いた心を、ゆっくりと時間をかけて融かしていくようにカレンは数え切れないくらい話し、寄り添った。

元々長い道のりであったため、レインと共に元の地に足を踏み入れるまでカレンは自身を信頼してもらえるよう、また彼女を理解し信頼しようと努力を重ねた。


まだ先はかなり長いが、それでも少しずつ着実に、レインの表情は柔らかくなりつつあった。



そんな道中を経て、彼女と邂逅してから数日の時が流れる。



カレンが所属している中級ギルドのある街まであと一歩のところにある町までやってきた二人は、辺りが日没の影響で暗くなってきたことを機に宿を取って翌日出発の予定を立てながらここ数日の疲れを取らんとしていた。


「はーつっかれ。足がいったいわ」

「肉体戻ってから歩きの連続やったしなぁ。レイン姉ちゃん足揉んだろか?」

「その手つきとてもいやらしく見えるからやめてくれる」

「何でやねん~」


ワキワキと動かしてみせた手をレインの足に伸ばそうとして思いっきり払い除けられたカレン。

彼女のツンツンした態度はまだ健在の様子だ。

ただ、少しばかりではあるが言葉の端々にあった鋭利なトゲのようにチクリと刺さるような物言いからは離れつつある。

その証拠に、カレンはぶーたれた表情は見せるものの嫌な顔一つ見せず朗らかな雰囲気を見せている。


「アンタこんな距離を徒歩で歩いてたの?いよいよゴリラみたいな体力してるわ」

「そやねん、ゴリラやから両手も両足もついてヒョイヒョイ~って感じでな~ってなるかい!四足歩行動物やないぞ!」

「ナックル歩行してそうなオバケ体力持ってるんだし本当にやってたって言われても違和感ないわよ」

「おぉぉぉおおい、そこは違和感持てや!」


ズビシと擬音が出てきそうな勢いで手のひらを揃えてスナップしながらレインの方へ振り、指が彼女に向くようにビタッと止める。

日本の関西出身者の過半数が取るような、所謂「なんでやねん」のツッコミ動作である。


「それにしても随分と遠いところから出向してきたのねアンタ。今のギルドって縄張りと言うか許容範囲そんな広いものなの?」

「そやねん。つい最近の話なんやけど、あっちらこっちらあったはずの中級ギルドが軒並み潰れよってなー。お鉢が全部うちんとこに回ってきたっちゅー感じ?」

「どうなってんのホント」

「な~」

「もうちょっと危機感持ちなさいよ体力ゴリラ」

「そうそううちゴリラやから体力も腕力も有り余って腕白なってうぉぉo」

「さっき一回やったでしょもういいわよ」

「せめて最後までやらしてくれやぁあ!」


他愛もないやり取りを交わしながら、二人は広めの部屋で各々ベッドに座り、足の疲労を労わる。

カレンのテンションについていきながらもつていけなさそうな雰囲気を醸し出しているレインの表情は長き徒歩による疲労からくる痛みでごくわずかながら歪んでいる。

レイスクイーンとして実体がないままユプルーク村に呪いを振り撒いていた彼女が突如取り戻した肉体を長距離移動させたが故のその辛さを、カレンは自分がピエロのようにおちゃらけるような振舞いで緩和させようとする気遣いが見えるようであった。


まあ、軽々にあしらわれているのも彼女の想定の範囲内なのだろう、無作法に吐き捨てられるセリフを受けても大して怒ってはおらず、むしろ表情は綻ぶ一方だ。



「んで、何度も言ってきたけど一応もう一回言うわよ。アンタ【わたしのことどう説明つけるつもり】?」

「あっ、教えたての【日本語】使うんズル……あー…んーと…」


どうやら道中で【真価解放】の術を伝授したらしく、元々『魔力なし』の判定を突き付けられたレインも即時適応し、自分のモノとして会得できたようであった。


「何も考えてないのね?」

「あっ、ハイ」

「あっきれた……わたしの『ナ・ベルリオ・ドナトーレ』を打ち破った類い稀なる手法のはずなのに、ここまで無計画だと一周回って笑えてきそうよ」

「すんまへん姉さん」

「やめてくれるその両手を両膝に据え置いて大股で頭下げる挙動。極道の妻じゃないのよわたし」

「よォ知ってんな。やっぱ日本人やったモン同士色々話わかるンやなあ」

「自分の無鉄砲をまずは恥じてくれる」

「いや~、あのハゲちゃびんやったら話したら何とかなる思てる自分がおるからな~」


大仰な立ち振る舞いが往々にして目立つカレンを一蹴するレインが会話を主導しているのが何とも不思議な様相を醸し出す。

長らくアンデッドとして村一帯を支配していたカリスマそのものは、肉体が戻ってもなお健在らしい。

話し方がつっけんどんなのはまだ例の件を完全に払拭できていないからだと思われるが、それでもカレンの【日本語】行使のおかげでかの闇魔法は完全に消失している。

一時的に魔力を得たとはいえの能力だったが、今同じ術式を介しても以前のように発揮することは今後できないだろう。


「ほンでやなあ」

カレンが不意にレインの隣について腰を下ろす。

「何なのよ」

それを受けてか、レインは言葉を投げかけつつカレンから一人分の隙間を空けて遠ざかる。

「着いたら一旦レイン姉ちゃんの服買お~と思っとってな」

遠ざかって空いた隙間を受けるようにカレンは再度隣にぴったり体を付ける。

「それは助かるわ。オッパイマウント取られたままで紹介されたくないし」

カレンの動作を再度受け、同じように遠ざかる。

「せやろ~?カワイイ服よォけあるさかい、選んでもらおかってな」

レインの動作を再度受け、同じように接近する。

「可愛いはともかく、普通に服着たいわ」

さらに遠ざかった。

「姉ちゃんの魅力を表現できる服あるとええよね」

さらに近付いた。

「そうね。アンタより色っぽくなって人気爆上がりかもね」

遠ざか…ろうと思ったがすでに壁に身体が当たり、遠ざかれない。

「色っぽいレイン姉ちゃんええな~。胸なんかなくったって女の色気は十分に表現」



ズバン。



「できぶふぇっ!」

カレンの左頬に何かが炸裂したようで、堪らず体勢を崩し床に手をついた。


「胸ない胸ないうっさいわよこのオッパイボースト女!!寄るたびに主張しやがる胸押し付けてわたしを莫迦にしてるのアンタ!?」

気が付けばレインの右手には張扇に近しいものが握られていた。

それも隙間が然程なかった状況で至近距離から思いっきり振りかぶったかのような威力を与えることに成功している。


余談だが、ボーストというのは元の世界で言う「boast」という英単語で、意味は「自慢」である。



「ぐふ…レイン姉ちゃんも関西的なノリ、理解ってきよったみたいやね…」

「そんなノリどうでもいいわよ!何アンタなんかわたしに恨みでもあんの!?さっきからぽよんぽよん右腕に乗っけてきさらしやがって鬱陶しいったらありゃしないわ!!」

「別にそんなつもりやなかったんやが…」


かなりの衝撃を入れられた左頬を痛そうに抑えながらカレンはレインに視線を向ける。

表情は心なしか穏やかそうにも見えていたが、受けたダメージは割と大きかったようで体力が大幅に減らされている。


【体力値:1253/ 3244】

【状態:高揚・オチ】


『オチ』て何じゃい。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る