24文字目 再生、<レイスクイーン>


「な"ん"でがわ"い"ぞう"な"ん"や"ぁ"ぁ"ぁ"~~~~~」


<レイスクイーン>の回想をまじまじと聞いていたカレンは途中微笑ましく思ったのも束の間、急な来訪者の仕打ちに怒り、娘を売った男らに憤慨し、望まぬ最期を迎えてしまった娘に涙しとまるで百面相のように感情移入し、最終的に今のような大号泣に至るのである。


<―――なんでアンタがそんな泣いてんの>

「だぁってざぁぁあぁあ~~~ウヂもざぁああぁぁ~~~~伯爵"家の生まれ"なのにざあぁぁぁ~~~~~ドレイ"みだいな扱い受けててざぁぁぁあああああ」

<わかった、わかったから、そのみっともない顔拭いなさいよ>


外見が外見なだけに表情までは見ることは出来なかったが、周囲の黒いモヤが続々と量を増していた状況に彼女の現状の姿を併せて鑑みると、話している間も腸が煮えくり返る思いをしていたのだろうと察するに余りある。


レイスクイーンの口調は当時のものとはかなり違うようだが、彼女曰く、

<あまりにも悔しいから魂を白骨死体と同化させたんだけど、その時にすっごくグレた>

らしい。



「ずびびびびー」

道具袋から拭い物を手に取ると、そのまま鼻頭を覆うように被せて勢いよく鼻をかむ。


「そらぁそうなるって、誰やレイスクイーンちゃんが悪もんやーいう噂流したんは」

<あら、そりゃあそうよ。この白骨身体になってから一時的に魔力を得たから、全部村への呪いとして使い果たしてやったもん>

「どうやってよ?」

<察するにアンタ、『ナ・ベルリオ・ドナトーレ』の噂聞きつけて来たんでしょ?アレわたしの最初で最後の唯一の闇魔法よ。今また魔力すっからかんだもの>



レイスクイーン曰く、『ナ・ベルリオ・ドナトーレ』は彼女が一時的に得た魔力を全開で放った、所謂闇属性の『呪い』とのことだった。


宿屋で受付をしていた女性やその周囲にいた人物たちはそれを聞くだけで恐怖に驚き、慄き、震えあがる反応を見せていた。

何かあってからでは事だとしてカレンは当時深く聞こうとせず宿屋を後にし、直接この山脈に来るまでに色々と作戦を練っていたのだが、実はカレンがこの魔術を受ける可能性はない。


<『悪霊死霊の意図人形』って言うのだけれど、あの魔法は何かをトリガーとして発動する時限式の呪いなわけ>

「ほ~ん…せやからあの村で『ナ・ベルリオ・ドナトーレ』て発言することもなかったんか」

<そこまでたどり着いたんならもう理解るはずでしょ………何よその反応。あれっ、もしかして理解ってないのアンタ?>


骨だから表情はわからないが、どうやら驚き戸惑っているらしかった。

動きがなんとなくぎこちないような感じがする。


「あ、いや~その…生憎とウチも伯爵家で『魔力なし』やったんでドレイ同様の扱い受け取ってな…魔法の類なんかな~んも知らんのや」

<えっ。じゃあ何でわたしの身体の動きをビタ止めしたのよ。説明付かないじゃない>


偶然ながら、生前のレイスクイーンと同じくしてカレンも『魔力なし』の『呪い子』と判断を受け、悲惨だった生活を強いられた過去を持っていた。

だからなのだろう、ここまでのランクに上り詰めるために瞬時の判断力を売りにしてきたカレンが攻撃を選択するまでにかなり長い時間判断を迷わせていたのは。




「まあまあ、そないけったいな身体ンままで話聞いとらんと、【ありのままの姿で一からやり直そうや】」




どうやら彼女は行使することに決めたらしく、自然な流れで一言投げかけた。


<あれ…なんか一瞬、懐かしい感じがした…>

レイスクイーンが一言ぼやいた次の瞬間、彼女は自身の中心から発生した光によって一気に身体全体を覆われる。

いつの間にか胡坐をかいて地べたに座り込んでいたカレンは、空中に浮かんでいたレイスクイーンに起こっている反応をまじまじと眺めてニヤリと笑みを浮かべている。

その光はしばらくの間彼女を覆い続け、辺り一面に目映さを広げていく。


すると、光の中で骨々しい体付きであったレイスクイーンの身体は、見る見るうちに骨の一片一辺から徐々に肉付きを戻していく。

元々細い骨であるのが心配だったカレンだが、ニヤリと笑みを浮かべている以上その辺りのケアも行使に含めているようである。

ボロかった衣装は肉付きの再生と共に光の中へ霧散していき、時間をかけてその身に体温を生み、脈動を起こし、機能を戻し、生気を取り戻していく。


時間にすると1分満たない時間ではあったが、役目を終えた光は再生された彼女の胸部の中へと消えていき、深部の鼓動を起こす波動を最後に起こした。



「お~、ええやんええやん。まさに『ザ!看板娘』って感じの可憐さやわ」


彼女の瞼が正常に開くのを見たカレンは満足そうに頷いて見せる。

だが彼女の第一声は―――




「何でわたし裸なのよぉぉぉおお!!」




だった。


「あー、そういえば衣装一緒に消えとったな。こりゃうっかり★」

キャラクターの語尾にマークついてる小説なんか見たことねえぞ。


「やだやだやだやだ何で身体が戻ったのかもわかんないし肩にかけてただけのボロ衣装はどっか行くしそもそも平気だったのに今私どうして恥ずかしがってんのこれどうなってんのやだやだうぇぇえぇえええん!!」

「ちょ、ちょい待ち、何も泣かんでも…あ、そや!」


バツが悪そうな面持ちに変わったカレンが何を思ったか、道具袋から自身の衣類一式を取り出して彼女に投げつける。

「わぷ」 と締まりのない声が布を被った勢いで出てきたが、それを手に取って丸見えの部分を咄嗟に隠す。


「あー、それウチの予備の服なんよ。サイズ合わんかもしれんけど、せめてそれ着て泣くの止めてもらえんかなあ」

困り顔で後頭部をカリカリと指で掻くカレンを見て彼女は、久々に泣いたことで久々に染まった鼻頭を晒しながら無言のままいそいそと着衣に袖を通した。

黙々とした時間が続いたが、今度は違う理由で彼女は騒ぎ立てる。




「サイズ合わないってこれわたしに対する当てつけかぁぁぁぁあああ!!!」




裸の次はカレンが投げてよこした胸部のサイズに、羞恥ではなく憤慨の意を全開で込めていた。






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