22文字目 回想、<レイスクイーン>-1


<はーつっかえ。結局わたしはこういう目に遭うわけですか。そーですか>

「おいおい姉ちゃんおい姉ちゃん、これ小説やったら作者が元ネタ知らんと使っとるやろうからやめたってほしいんやけど」


出だしからそういうメタフィクション的な発言をするのはやめなさい。


「そんなんよりも、一緒に来ぉへんか?こんなとこでイタズラしよったって何の得もあらへんで」

<おまえ何も知らないからそんなこと言えんのよ。あの村はわたしの全てをもてあそんで裏切った。だからその報復をしてるだけよ!>


そして出だしから重たい話するんですか。


<あれは忘れもしない、12年前の話よ>




と、あれよあれよという前に回想に入ってしまったため、物語を語る立場とはいえ仕方なく話していこう。


レイスクイーンである彼女が言う、12年ほど前。

ユプルークの村は今も昔も変わった様子はなく、現代のカレンが感じたような殺風景ながらに田舎のような安心感を持つ村である。

それでも敢えて今と違うところを上げるとすると、村全体の幸福度が関わるくらい。

何も年がら年中恐慌状態にあるわけではないし、大きな変化があるような場所でもない。


それくらい、これといった特徴は明確にされていないほどののどかな村である。



そんな殺風景な村には似つかわしくないと村の住人も言葉にするほど、周囲からも評判高い美麗なスタイルを持っているあどけない少女が一人いた。

この少女は村一番の看板娘として、村のいろんな場所で笑顔を振りまき、周囲の笑顔を増やしていた。

内々に秘めた力など何も知らない、辺境の田舎村によくいる、献身的なタイプの少女である。


とある日、高級な衣装―――騎士の正装だろうか、これに身をまとった人物といかにも高そうである馬車と引馬、間もなくしてそこから姿を現し地に降りたる高貴な人物、それらが突如村に来訪する。

高貴な人物が値踏みするような目つきで辺りを見回し、そして一言放ったそうな。



「ここに魔力なしの小娘が一人いるという噂を聞きやってきたのだが、主ら何か知ってはおらぬか?」



そう言ってはいるものの、なにせ辺境の田舎村。

誕生の時点、あるいはとある年齢の誕生日時点、双方いずれかのタイミングで魔力の精査を行うといった王国の取り決めをしっかり守れるほどの設備はもちろん存在していない。

だが、一人の村人が偶然、半強制ともいえる魔力精査の実行役の適正があったため、大抵の人物は秘密裏にその村人による判定をもらった上で普段と変わりなく過ごすのが通例であった。


最初は誰一人として「存じ上げない」といった答えを一致して提示したのだが、相手側ははいそうですかと引き下がるほど軽い相手ではない。

村人たちの誤算は、まさにそこにあった。


「隠し立てしたところで無駄である。人物の特定こそ至ってはおらぬものの、居住域は間違いないと突き止めておるのだ。出さぬと言うなら」

と高貴な人物が脇に一歩引いていた騎士が人の腕一本程度の槍を手に取り構え、静かに一言詠唱する。

槍の先に光を帯びた刹那、パンッという軽度の破裂音と同時にそこから何かを射出したらしく、その先にいた村人の胸をいとも容易く貫く。


鮮血吹き出す村人を誰しもが目にする中、突如齎される恐怖。

辺りから絶叫が響き渡り、集中する視線はいきなり訪れた来訪者一行に向けて変わられる。

高貴な人物や騎士のような人物は致命傷を負った村人に一瞥もくれず、続ける。


「武装は脅しの手段ではない。目的を遂行するための力である。かの有名な、ナイエルディア伯爵氏のような…な」


騎士は矛先を変え、高貴な人物の合図を受け同じ動作をもう一度繰り返す。

一人、また一人、村人たちの命は無碍な一行らによって奪われていく。


「知らないと言っているのがわからないのか!!」

「知らぬ存ぜぬで通そうとしているからこその判断よ」


口答えしたとみなされた村人に対しては胸ではなく額を打ち抜くよう指示して合図を出し、騎士は涼しい顔で淡々と命をこなしていた。

まるで操り人形のように、無表情のまま小槍を銃器のように構えて撃つだけ。

そんな不気味な人物を前に、村人たちは抱いた恐怖を一層強く煽られる。



げに恐ろしきは人の欲。


一行らがなぜ「魔力なしの小娘」一人を探し求めるのに数多の被害を生み出すのか。

一つだけわかっていることは――――





   彼らは村人たちの命を、塵埃程度にしか考えていない。





「あくまでも隠し通すつもりでおるらしいな。おい」


更なる合図を受けた騎士は携え構えていた小槍を引き下げ、代わりに豪華な装飾があしらわれた錫杖を馬車の荷台の後ろから大事そうに持ってくる。

献上されるがごとく差し出した騎士からそれを受け取ると、高貴な人物は錫杖と共に両手を前方に掲げ、詠唱を始める。


あまりの恐怖心に駆られたか、これを見た村人の内の一人がついに言葉を投げかける。



「あの穀潰しなら向こうの山の入口手前にある家でのうのうと生活してやがるよ!!」



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