21文字目 奇襲、<レイスクイーン>
「おいおいおいおいお姉ちゃん、いったい何言うとんねん?」
ようやくお目に罹った<レイスクイーン>との邂逅第一声がまさかの怒号だったことに素っ頓狂な反応を上げた上、何も知らないと言わんばかりの言葉を投げつけるカレン。
すると間もなくして、声の聞こえた方に目線を向けているカレンの前方に集約していた黒きモヤが、一斉に圧縮したようにある一点へと集中していく。
<何故わたしハ動ケナカッタノカ、初メハ全ク見当モツカナカッタワ!>
黒きモヤが一転集中したどす黒い闇の玉のような悪しき気配は、かの言葉終わりから時間を置かず爆裂。
ある一定の範囲を超えないよう黒きモヤが周囲を薄く覆い始め、再びカレンの視野は明光を感じさせない、夜にも似た薄暗さが広がる。
逆に爆裂した座標点付近からは黒きモヤが振り払われるがごとく霧散し、そこにある姿を顕現させていた。
聖職者のような衣装をまといながらその実、聖職者の欠片も感じないほど黒々と色取られている。
肉付きについては腐食しているどころかもはや存在していないに等しく、仰々しく晒され剥き出している骨々の数々。
カレンから向いて左側の手のような部位の周りには、かの能力のせいかアンデッド系には似つかわしくないものの黒に侵されている錫杖がふよふよと漂っている。
頭部を模しているであろう頭蓋骨の目に当たる部位からは、これまた毒黒い赤紫のビー玉のような球体が残像と共に揺れている。
発する言葉のようなものは、頭蓋の一部である上顎骨・下顎骨をカチカチと鳴らした周波によって形成されているようだ。
また肉付き自体が無いにもかかわらず、衣装の胸部は割と大きく膨らんでいるのは生前の女性のものか、唯一女性らしさを感じるかどうかの要因になっていた。
総じて言うと、確かに名前が表している通り、レイス系最上位に位置するレイスキングの対の存在・女性形態だと思われる。
<アノ場所デ休ンデイルおまえニ奇襲ヲ仕掛ケテヤロウト、動コウトシタ途端、わたしノ体ハ静止画ノ如ク止メラレテイタ!>
カンカンに怒るレイスクイーンを前にして、カレンはしれっと口を尖らせてしらばっくれるそぶりを見せる。
「ほぉ~ん。何でなんやろな」
<恍ケヤガッテ、絡新婦(じょろうぐも)ノヨウナ奴メ!>
既に襲撃態勢に入っているようで、レイスクイーンの周囲には只ならぬ魔力が球体上を模して複数浮いているのがわかる。
<ダガ、おまえガここニ来タコトデ、ヨウヤクわたしノ体ガ動ク!一気ニかたヲツケヨウゾ!!>
困ったことに、そこそこの数の魔術の詠唱・充填は完了しているようである。
奇襲を仕掛けようとしていたのは事実らしい。
だが、カレンにとって重要なのはそこではなかった。
「別にええけど、な~んかおかしいんよな~」
<何ガヨ>
「ほら、あんさん、こう呼ばれとるんやないっけな?えーと…」
とても重要な、あの言葉を、カレンは目の前で放った。
「『ナ・ベルリオ・ドナトーレ』やったっけな」
言い終わりと同時に一つの魔術がカレンに向かって飛んでくる。
目線を戻した彼女の目前に、既に炸裂せんとする勢いでそれがあった。
一瞬、ぎょっとした表情を見せるカレンに対して、
<ハハハハハ、マサカおまえノ口カラ言ッテクレルトハ!わたしガ放ルマデモ無カッタカ!!>
と、もう勝った気でいるレイスクイーンの高笑いが響く。
<ソノママ、 ど か ん ―――――ダ!!>
「【――――――】」
もはや定番であろう擬音と共に似たような音を響かせて辺り一帯に(おそらくだが)毒属性の圧縮球体を炸裂させる腹積もりだったのだろう、まるで止めを刺しにかかる悪の強者感を醸し出していたレイスクイーンだったが、その球体は炸裂するどころかむしろ不発したような「ぽふぅ」という可愛くも情けない気の抜けたような音を一息放って霧散した。
<―――――は?>
と、呆気にとられるレイスクイーン。
「はいはい悪者悪者。姿が姿やから仰々し~しゃべり口しとりゃあ一般人ならビビり散らかすのはわかっとった話よなあ」
黒紫の煙の中からは、特に何の攻撃も状態異常も受けていない、一冒険者を名乗る人の姿がそこにあった。
第一の弾で勝利を確信するなど、ボスとしてはただの死亡フラグに過ぎない。
「とりあえず1回受けるつもりで試したんやが、動作が早うて脊髄反射で使ってしもた。ま、一応軽微ながら確実性を持たしたけど、それでもしんどいわぁ」
ふーと一息つく人の姿を四度見くらいした骨々しい女性形アンデッドは眼球こそないものの目を点にして言葉を失っていた。
<……え?何で?どして平気?確かに当てたよね私?何で何も引き起こされていないの?何で傷一つ受けた後も残ってないの?どして?ばかなの?>
「おーいおいおいおいお姉ちゃん、あァァァんまりなァァアァ状況なんはウチもわかるけど言葉遣いめっちゃブレとるで」
<えっ、あ>
言われて、レイスクイーンの口調や発音が一般的な人種族の女性形のような音程と知性が掛けているような言葉遣いに変わっていることにようやく気付く。
<せっかくそれっぽく言って恐ろし~ってなってるとこに急所にブチ当てて効果はバツグンだァー!ってなったところをカクテルを呑みながら喜ぼうとしてたのに目の前のヒューム種は何かわかんないけどぴんぴんしてるし苦労して修得した声遣いをいつの間にか忘れてるどころか指摘されるしこれどういうことなの今結局わたしってどういう扱いになってんの今とっても恥ずかしい存在になってないどうすんのこれわたしどーすんのこれどーやって収めんの!?!?>
「ウチから始めといて何やけど、ツッコミどころ多すぎて逆に冷めるわぁ」
――――何この状況。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます