14文字目 嵐の前の静けさ


やっとの思いで到着したカレンはもっさりとした動作でチェックインを済ませ、借りた一室へ入るや否や寝床にダイブした。

「あぁ~~ぁぁあ"ぁ"疲"れ"だぁ"ぁ"ぁ」


齢17才とは思えぬオッサンのような声で寝床に全体重を預ける。

疲れた身体に鞭打った甲斐もあってか、ふかぁ…と柔らかさを全面的に主張する寝床の心地よさに、自然と意識が蕩けて眠ってしまいそうになる。


「はっ、いかんいかん…」


寸前、カレンは意識を覚醒させ『ギルドのおっちゃん』から渡された依頼書について今一度確認する。


(ちゅうても、この辺そないな獰猛なモンおった形跡あんまなかったけどな…)


内容としては、やや遠方に位置する農村の田畑が今までに類を見ないほど荒らされているとのことで、所属ギルドへ依頼をしたようである。

カレンの思いが表す通り、道中迷いこそしたもののそれらしき存在や気配を感じることはなかった。


道すがら出てきたモンスターはちらほら見かけたが、人間の生態を破壊しているとは言い難い小さな相手ばかりだったので、元々が日本人であったのも起因してか殺生をすることはせず、魔力なしの自分が唯一行使できる【日本語】によって念押しに無害化させる程度に留めている。

これらの存在が後に新たな職業『マ・デュロテムト』―――カレンを筆頭とする日本人的に言うと『モンスターテイマー』を成立させるに至ろうとは、この時の彼女には知る由もないことである。



「『尋常ならぬ田畑の被害状況とそれらの発生要因の解明、必要ならば要因の根本的除去までを条件とする』―――かあ」


日本人からすれば定番の「畑を荒らすモンスターを討伐せよ」という依頼内容そのもののようにも見える。

多少なりともライトノベルやなろう系小説などにも見聞がある彼女の〝魂〟はどこか他人事のように考えたりもしていたが、その考えはすぐに払拭する。


何せ、今いるこの世界は『地球の中の日本』ではなく、まったく別の異なる世界として成り立っているためだ。

正直、元の世界のように惑星として構成されているのかそうでないのかすらもわからない。

どこぞの異世界では地上に立つ人物が空を見上げれば上下相反する大陸がぼんやり見えるような特異な状況すらあるくらいだ。

惑星ではないと言われたところで何ら不思議な点はないだろう。


それに、彼女はあの生誕祭のこともある。



「あれは今ンとこいっちばんめんどっちかった出来事やったわぁ……」



寝床に身体のすべてを預けながら、カレンは成人を果たしたあの生誕祭の出来事を思い返した。




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