13文字目 野宿していたかもしれない
ある程度の時間を費やし、やっとのことで目的地に到着したカレン。
地図を広げて棒立ち状態の立ち往生という憂き目に遭いながらも、通りすがる人物たちに助力を乞いながらようやっとの思いで辿り着く。
「何やわからん書き方しよってぇぇ~。どんだけ恥ずい目ェに遭った思うとんねん」
実際の地図には、地図は地図でも世界地図であり、彼女が発した先と思われる『ギルドのおっちゃん』らしき人物の描いた道筋は、まるで殴り書きとも取れるほどに大雑把に記されていた。
通常なら近辺の地域図など、やや詳細めに描かれるであろう地図を渡す方が合理性は高いのだが、彼女が冒険者になった時点では該当の地図のストックがすでに尽きていたらしく、検討に検討を重ねた結果、最終的に唯一コピーが数枚残っていた世界地図――――それもやや時代の古いものを手渡された挙句、確かこういう道だったと記憶を頼りに描かれたらしく、記述されている道筋の軌道が所々点のようになっている様も窺えた。
「な~にが『俺っちの時はこれで十分行けてた』やねんな!うちがここ来るまでに何時間浪費したか絶対理解(わか)っとらんやろあのおハゲちゃんは!」
道を尋ねた道行く人の内の一人は、ちょっと失礼と彼女が手にしていた地図を借りて道筋を確認したが、その際に返ってきた言葉がある。
「お姉さん―――この道、以前に大規模の土砂災害が遭った場所で、現在は安全のために閉鎖されていますよ。これ自身は世界地図なんだけど、この軌道のうねり方を見る限りではそこを通る筋道みたいですし、概ね間違いないかと」
それから正しい道を教わって苦労の末に到達したのだが、その情報がなければあと数時間は立ち往生が続いていたかと思うと、文句の一つも湧き出ようというものである。
『俺っちの時はこれで十分行けてた』と発言した当人が実際にここを通ったとした経験をしたのは、おそらくかなり前の話であると推察されよう。
「はぁ~…これでめんどっちー仕事やったら帰ってシバいたろ」
日光の落ち具合から見て、今の時刻は夜に差し掛かり始めている頃合いだ。
さすがに夜から仕事に出向くわけにはいかないので、一先ず宿を取って今までの多大な疲労を取っ払ってからにしようとカレンは宿に続く道を歩き始める。
道すがら周囲を見渡す。
一見すると見所がなさそうな殺風景な村といった感じである。
特徴がなさそうというだけでは町はおろか村としても長くは続かないだろう。
(ふ~ん…異世界の村って、何か日本の田舎を思い出せそ~な雰囲気醸し出しとんなぁ)
カレンが考えてる通り、今の世界に於いても田舎暮らしを好む人は割と多い。
そのためか、モノやイベントこそ滅多にないものの人間としての人となりがどの町村よりも純粋に感じられる。
殺風景と娯楽は、表裏一体の代物なのだろう。
村に着いてからそこそこに距離はあったが、周囲の家々とは一味違う建物が見えてくる。
入口付近に出ている、申し訳程度の大きさの突き出し看板には現地語で「宿屋」と書かれていた。
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