3文字目 「伯爵家第五子」は不幸体質


―――――はずだった。


時は戻り、ハーシバル歴9371年、某伯爵家屋根裏部屋。

彼女だった魂は今の身体に移り入り、現在は伯爵家の子として生きている。


現在の境遇はお世辞にも良いとは言えないことは、本人が『転生』してからある程度の日数を体験して思い至った結論である。

この状況を現実世界の人物たちに分かりやすく例えるとすれば、まるで『シンデレラ』のような扱いだ。


寂れた服装のまま、継母や義姉たちにいいように使われるあの物語と、非常に似ている。

違う点を上げるとするなら、本人と伯爵家の主要人物は紛う事無き血族であることくらいである。


(元の世界では社畜のように働かされ、今の世界では伯爵家の生まれなのに人から隠された上で働かされ………

  なんも変わっとらんやんけ…神様ぁ、何でなんや…)


そう感じてはいるものの、身体的にはまだ未成熟であるおかげか、元の世界で感じていた後引くような疲れはないという。

さらに本人は天啓を受けたのかそれとも無自覚なのか、あるいは元の世界からの知識なのか、呟くように一声放つ。



「〈状態確認〉」


すると眼前に半透明のウィンドウが本人の前に姿を現す。


【ネーム:アルカレンス・ウィル・ナイエルディア】

【エイジ:8】

【レベル:6】

【ディグリー:伯爵家第五子】

【ジョブ:(空欄)】

【ステータス:快活】

【テクニック:(空欄)】

【マジック:(空欄)】

【パッシブ:炊事6・疲労回復8・精神耐性12・物理耐性10】


ずらりと並ぶ情報の中には、本人以外には見慣れないものもあった。


【ゴッドブレス:日ノ本テンショウ20・創世ゼネシス15】


……まぁ、それとパッシブを除けば平々凡々なものである。


「…いつ見ても何やねんこれ。パッシブはわかるよ、常時発動型のスキルやろ?…ゲームやったらの話やけど。

  ゴッドブレスってなんや……テンショウ…ゼネシス……???」



本人―――アルカレンスは首を傾げた。

だが気にかかる部分はそこだけではなく、最初からずーっと気に食わないとして言っていることがある。


「んで何で表記が英語やねん!パッシブの炊事とか回復とかはちゃんと日本語表記やろ統一せえよ!」


細かいことにツッコミを入れずにはいられないのかもしれないが、確かに言い分としては間違ってはいない。

何故このような表記になっているのかは依然謎のままである。


(はぁ~…めんどいわぁ…)


アルカレンスが呟くと、下から威圧を感じる言葉が流れ込んできた。


「アルカ!起きてるなら早く降りてやることやりなさい!!」


声から察するに、女性らしき人物のようである。

威圧的な言葉にアルカレンスは眉を顰めた。



(何が伯爵家や…他人の不幸で蜜吸うてるだけの天下り役職やんけ…)

「へいアネさん今生きや~す」


「気色の悪い呼称を使わないでちょうだい!汚らわしい…!!」


酷い言われようである。

アルカレンスはぼそぼそ愚痴をこぼしながら屋根裏部屋から出て行った。



この日から7回目の夕方、アルカレンスに転機が訪れようとしていた。




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