問題はやはりアメリカよ。

初戦のオランダ戦を7ー1というスコアで快勝した日本の2戦目はブラジル。


控え中心とはいえ、全員がメジャー経験のあるアメリカを初戦に迎えた南米球界の雄。


序盤までは粘りの戦いを見せるも、中盤以降に集中打を浴びて大量失点。


しかし、アメリカ相手に5得点した打線の怖さは警戒するレベルにあり、そんなブラジル代表を完璧に封じたのは、メジャーリーガー神沢だった。


北海道フライヤーズから、ロサンゼルス・アナハイムへ。ポストシーズンには進出出来なかったが、12勝を挙げたピッチングを遺憾なく発揮。最速154キロのストレートに、巧みな変化球を織り混ぜて、予定の4回を1安打無失点ピッチング。


その後は若手中心のリリーフ陣もブラジル打線に仕事をさせなかった。


打線は、球団との密約で出場出来ない平柳君と俺の抜けた1、2番に、前の試合ホームランのナミッキーと浦野君がそのまま入った。


勢いのある1、2番が共に3出塁と役割を果たし、3番藤並君、4番霜村が2打点ずつ。

棚橋君にも豪快なホームランが飛び出すなど、2試合連続の2桁安打7得点と打線が活気づき、見事な完封勝利を飾ったのだった。


そして3戦目のアメリカ戦である。


なんだか決勝戦のような雰囲気。想定よりも早くスタジアム入りしたアメリカ代表の姿勢を見るに、かなり気合いが入っている様子。





とはいえ、日本代表も予定より1時間早く球場入りしていた。


その理由はアメリカ代表のバッティング練習に興味があったからである。



足早に着替えてグラウンドを覗いて見ると、ちょうど始まるところ。赤色のシャツを着たムキムキバットマン達がにこやかな表情でバッティングケージを囲む。



今年は死ぬほど対戦した同地区アタランタの看板選手であるザカレアJr.。ニューヨークのグリーン、マーチンの主砲コンビ。


本塁打ランキング2位のミルウォーキーのミルナー。ロサンゼルスのムーアとキャッチャーのワシントン。


その中でも、やはりお目当ては、俺たちの同僚、バーンズである。現在のメジャー最強打者。ゲームの中では、パワーSで後は全部Aで、特能モリモリというただのバケモノ野郎ですから。



そんな奴がバッティング練習を始めると……。



バガシャ!!



バガシャ!!



バガシャ!!



反響のいいドーム内に、よく分からない打球音が鳴り響く。そしてその打球は……。




ヒュー…………バゴッ!!



看板直撃。



しかも簡単に。



光回線だの、なんとかテクノロジーだの、なんとかクリニックだのという看板に、何球かに1球届くような、そんなペース。



打球が看板に当たると、周りで見ている首脳陣やチームメイトとゲラゲラ笑う。そして一瞬だけ真面目な顔をすると、また打球はスタンドへと飛び込んでいくのだった。






しかもなんかやけに、ヘラヘラしてるなと思って、奴らの会話を聞いていたら、何種類の看板に当てられるかを競走してやがった。



何回じゃなくて、何種類。バーンズはレフトのポール際から順に、センター方向へと狙いを変えていき、バックスクリーン左にある鉄道の看板に当てたところでタイムアップ。



右中間にある、保険の新井さんという俺の看板まではいかなかったようだ。



よっしゃ!!俺が単独トップだぜぇ!と大喜びしているバーンズにちょっとお灸を据えてやろうと、俺は平柳君を引き連れてベンチから出ていく。



バットをマサカリのように肩に担いで、ガムを噛みながらヤンキー歩きである。



「おいおい、バーンズ。あんまり調子に乗るんじゃないよ。ケタンケタンにしちゃうからね」



「ヘイ、トキ!約束を覚えているよな!試合が終わったら、パチンコ屋に連れていってくれよ!!」


「そんな約束したっけ?」


「おいおい。忘れたとは言わせねえぜ。俺の家で、北斗とヨシムネを打ちながら約束したじゃねえか。俺の嫁のサンドイッチを食いながらよ」


「ああ、そういえばそうだったね。考えておくわ」



バーンズは最後まで念押ししながら、3塁側のダッグアウトへと引き上げていった。



「平柳君もパチンコ行く?」


「いいっすね!1回も行ったことないんすよ!行きましょう、行きましょう!」






「日本対アメリカ。このカードが日本の地で実現するのは2020東京オリンピック決勝以来実に6年ぶりとなりました。解説は大原さんと日米通算233勝を挙げました市原さんです。水道橋ドーム、1戦目2戦目にもまして、またすごい盛り上りですね」



「いやあもうね。やはり皆さん見たかったのはこのカードでしょうから。私も解説席に座れて大変嬉しい限りです」



「私は出来ればじっくり観戦したかったですけども。でもこの大一番に呼んで頂いたんで、盛り上げますよ」



「先ほど両チームのスターティングメンバーが発表されましたが、やはりまず注目となるのが両先発ということになるでしょうか」



「そうですねえ。アメリカはウェブ、日本は前村。世界一に輝いたシャーロットの先発の柱だった2人の投げ合いですからねえ。両方の監督はやはり分かっていますよね」



「それでいて、アメリカ打線には、バーンズとクリスタンテ、日本には平柳と新井がいるという、この辺りの対戦がどうなるのか、ワクワクしますね!」



「メジャーではシャーロットウイングスがものすごい試合の連続で世界一になりまして、その主力選手達がこの1戦に多くいますから、楽しみは尽きません。まずはアメリカ国歌です」

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