勝利のメンタルというやつを教え込むわけですわ!

37歳。同い年おじさんのイチャイチャ具合に、若い選手達はドン引き。平柳君は、涙目で白いハンカチをキーッとやりながらくわえていた。



「どうだい、相棒。調子の方はよ」


「相変わらずのボチボチだっての。いきなりくっつくんじゃねえ!」


などと言いながらも、なんだかんだでまんざらではない様子のキッシーであった。


代表初招集となった何かの国際大会で、満塁の大ピンチをことごとく見事な火消しをしたそのピッチングから、消防庁のイメージキャラクターに就任している男ですから。



決め球は、団結の力!という謳い文句。


ジャパンのユニフォームを着たキッシーがマウンドでガッツポーズしながら吠えているポスターですよ。


それが全国の学校や市役所、消防関係の施設に貼られているんですから、なかなかのものですよ。



ビクトリーズの仲間と言えば、彼もいる。



「よう、ナミッキー。シーズンお疲れ様だったね」


「どもっす。またなかなか大変な1年でしたよ」



長野の喫茶店のせがれ。ビクトリーズのキャプテン。彼も2年前のブレイクからなんだかんだで代表に選ばれている。


俺が抜けたビクトリーズは、最後までAクラスの可能性を残しながら、結果的に最下位に沈んでしまっていた。


そんなチーム状況の中でも、2年連続でキャリアハイを更新した彼は、打率3割、20本塁打をマーク。


平柳がいなくなった東日本リーグの遊撃手部門で堂々のベストナイン、ゴールデングラブのダブル受賞である。



「「失礼します!!」」



「おっ、ごくろーさん!まずは3人優勝おめでとうだな!」



「「ありがとうございます!!」」



ロッカールームを後にした監督室に向かった。


200勝投手、メジャーでも活躍した姉崎監督という頭が実に真っ白なおじさんである。


現役生活20年。それほど恵まれた体格でない姉崎さん。


体をいっぱいに使ったダイナミックなフォームと高速スライダーを武器に、2000年代初頭のオリンピックやWBCでも活躍した経験があった。


豊富なコーチ経験もある。


「神沢も難しいチーム状況の中、よく1年間ローテーションを守っていたね。どこか痛いところはないかい?」


「肩と肘が痛いです」


「この大会で使えねえじゃんかよ!」



「「ギャハハハハ!!」」



何かちょっと高そうな練り和菓子みたいなのがあったから、窓に向かって………あっ、UFOだ!と、4人の気を逸らしている間に、それを2つ掴んで立ち上がり、姉崎監督ゾーンから退出した。


出たところに、コーチ陣や主要のスタッフさんがいらっしゃったので、そのおじさん達にも挨拶する。


後はボールボーイのお兄ちゃん達ややサロンのおばちゃんにもサインをせがまれたのでサービスした。


練習中も、この期を逃すまいと、広報のカメラが付きっきりという感じでして。フリーバッティングが始まる頃には、メディアの方々もおおかた集結。


たくさんのフラッシュを焚かれる中、まずまずの打球を右方向へとかましていた。



そして2日後。



なんちゃらカップが始まる。



初戦の相手は欧州の雄、オランダである。




「全国の野球ファンの皆様、こんばんは。オータムインターナショナルカップ、ジャパンステージ。日本代表の初戦が間もなく始まります。


解説席には、2020東京オリンピックで見事金メダル。日本を優勝に導きました、稲木さん。そのお隣には、2023WBCで、世界一!粟山さんの豪華ダブル解説でお送りして参ります。おふた方、どうぞよろしくお願いします!」


「お願いします!」


「はい、よろしくお願いしまーす!」



「今年もたくさんの話題があった野球界ですが……」




ありがたいことに、水道橋ドームはムッチムチの満員になりましてねえ。試合前の練習から、平柳君が豪快な打球を飛ばしたり、俺の予告ホームランからのバント練習で笑ってもらったりして、1年頑張った甲斐がありますわよねえというお話。



まずは3塁側のオランダ代表の選手がグラウンドに飛び出していき、最後にスタメン発表と合わせながら、中にもシーズン中に見た選手も結構いた。





「続きまして、日本代表のメンバーをご紹介します!!」



姉崎監督自らが先陣を切って飛び出していき、俺は精一杯のがんばれー!という声援を送り、ヘッドコーチのおじさんには、初対面だったのでなんとなくブーイングした。



ポコン!



戻ってきて叩かれた。




「日本代表、スターティングナインナップ!」


若干照明が落とされ、数台のテレビカメラがベンチを囲む。



「1番、ショートストップ!ユータ、ヒラヤナギー!!」


「「ワアアアァァーッ!!」」



スタジアムDJの発声に合わせて、デッカイ平柳君の姿がバックスクリーンに映され、エスコートキッズの女の子と手を繋いで1塁線の方に向かう。



「新井さん、お願いします!」



腕章を付けたスタッフが待機していたキッズを俺の側に置き、手を繋がせようとする。


俺は遠慮なく申した。


「すみません。俺のエスコートキッズ、あっちの女の子の方がいいんですけど……」



と……。



辺りはざわつき、俺はニンマリ。



「2番、レフトフィールダー、トキヒト、アライー!!」


俺を担当するその男の子が……えっ……という哀しみの表情を浮かべたのを見れたら、代表に来た意味がありますよ。



「冗談だよーん!君が1番可愛いわよーん!!」



俺はそう言って、その子を抱き上げて、チュッチュッしながら、猛然とダッシュしていったのだった。



日本もスタメンの選手が出揃い、照明が元に戻される中、国歌斉唱やりますよー!という段階。


調教されたエスコートキッズ達が駆け足でベンチに戻っていく中、先頭を走っているのはもちろん俺である。



「みんな、監督室に美味しいお菓子があったから、ルパンしに行くぞ!!」



「「はい!!」」








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