愛しのあの子と再開ですわね!

というわけで、代表戦が始まるに先立って、日本代表も3日間のミニ合宿がスタート。


帰国してすぐだったので、1日目は不在にしてしまったのだが、2日目からは平柳君、前村君、神沢君というメジャー組として国内組が待つロッカールームに殴り込みを掛けたのである。



別に自分はそんなつもりがないんだけど、やっぱりメジャー組が来るとなると、年下の選手達は緊張してしまうと思うので、まずはそこの壁をとっ払うことから始まる。


全裸。




全裸入室というインパクトで勝負する。



「みんなお疲れー!集まってるー!?」


そんな言葉を話しながらロッカーに突入すると、半分くらいの選手達がその場から勢いよく立ち上がった。


そして一瞬で、その場にいた全員ぎょっとした表情になる。


「いやー、やっぱりこの時期の東京はもう寒いね。ちょっと前までマイアミにいたからさー。ずっと半袖でいけるくらいで。これ、お土産ね。1人1個ずつ持っててね。俺のロッカーはと……」


そう言って振り返ると、おケツには必勝と書いてある丸シールが貼られているのである。


これは前村君の演出、平柳君の見事な貼り位置。




「「ギャハハハハ!!!」」



一瞬の静寂の後に、ロッカールームは大爆笑に包まれた。




「おー、君が霜村君か。埼玉レオンズの。ホームラン王と日本一おめでとう!まだ21歳なんだってねえ」


「はい、はじめまして、よろしくお願いします。新井さん、平柳さん、前村さんも世界一おめでとうございます!」



185センチ、92キロという立派な体格である。高卒3年目と非常に若い選手。圧倒的な強さで優勝した埼玉さんの4番。打率3割2分、53本塁打をマークし、最高出塁率を含めて3つの打撃タイトルをマークした男。


これからの日本野球界を背負っていく選手である。


「どうしてそんなに打ちまくれたの?バレないドーピングとかやった?」


「はい!新井さんと同じ奴をやってしまいました」


「シモ!全部新井さんに乗っからなくていいんだぞ!」


「「アハハハハ!」」



同じチームの先輩にそう指摘され、お注射ポーズをした霜村君は目を細めて笑い、周囲もそれに乗っかっていた。



「どうも、どうも!メジャー組の皆様。ご機嫌麗しゅう」


そう言いながらタイミングを見計らうようにして現れたのは、代表チームのキャプテン。北海道フライヤーズの藤並君である。



わたくしがルーキーの頃から、センターにいたのはこの藤並君でした。


それから9年経ってもまだ、代表センターとして、キャプテンとして君臨している彼も、その時に比べると、幾分か体が大きくなった印象だ。





「どうかね、代表チームの調子は」


「たくさん若い選手も選ばれていて、非常に元気のあるチームですよ。新井さんも平柳さんも、世界一になったくらいじゃ試合に出れないかもですよ」


「おっ、いいですねー!いい感じですねー!」



確かに、6年前、7年前に比べると、だいぶ全体のレベルが上がっているようだ。2020東京で金メダル、2023WBCで優勝。24パリでは銀メダル。


国際大会では他国の追随を許さない実績を上げているお侍ジャパンですから。


最後まで分からない接戦の中でなんとか地区1位になり、リーグ優勝決定シリーズ、ワールドシリーズ共に、もつれにもつれたところで僅かな幸運を味方にして、世界一になったくらいでは、国内の勢いある選手に飲まれてしまってもおかしくない。



俺はそんな危機感を抱きながらカバンを下ろして、ようやくおパンツを履いたのだった。



打率、ホームラン2冠の21歳のトリプルクラウンを阻止したのは、この藤並君の勝負強いバッティングであった。



得点圏打率4割5分という驚異的な数字をマークし、18本塁打で123打点。120打点を記録した霜村君を下し、今年のプロ野球界を盛り上げたヒール役であった。



と、油断させたところで……。



「我らのキッシー!!ぶっちゅわぁ」



「ぐえぇっ、止めろ!来るんじゃねぇ!!」


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