Episode 2


ソルM:僕らの我が家アストラ孤児院。

カトリックの教えを守り勤勉で慈悲深い人格

へと矯正される子供たち。僕らは数年に一度

行われる祝福という名の臓器提供を知らず知らずのうちに受けさせられていた。いつか里親

が見つかるという嘘の情報を信じて...。

数多の臓器提供を経て子供たちは幼いうちにその命を失っている。

そう、この孤児院の実態は人身売買を初めと

する人体実験など数々の禁忌を犯す収容施設

だったのだ。



シスター「遅かったですね、心配したん

ですよ。どこ行ってたんです?」


ソル「ごめんなさい」


ルナ「ソルの体調が悪化してしまって...

木陰で休んでたんです」


シスター「あら、それは大変。ソル、

容態はどうです?」


ソル「少し傷が痛みますが、落ち着いたので

大丈夫です」


シスター「念には念をですよ。医療班を呼んで直ぐに診てもらいましょう」


ソル「すみません...」


シスター「良いんですよ。貴方が無事で

良かったわ。自分で歩けますか」


ソル「はい」


シスター「辛くなったらいつでも言って

くださいね」


ソル「ありがとうございます」


ルナ「あの...私も一緒に」


シスター「ルナは寮にお戻りなさい。

心配なのは分かるけど、こういうのは

専門の人に診てもらうのが一番良いわ」


ルナ「...はい、シスター」


シスター「本当に、ルナは優しい子ね。

おいで(両手を広げる)」


ルナ「っ」


シスター「どうかしたの?」


ルナ「(シスターに抱きつく)んーん。

私怖くなっちゃって、ありがとうシスター」


シスター「大丈夫よ。いい子いい子...」


ルナ「...」



𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄



シスター「それで、どこの木陰で休んで

いたんです?探し回ったのよ」


ソル「ごめんなさい」


シスター「謝らなくていいから、

質問に答えて」


ソル「...遊歩道の近くの」


シスター「遊歩道って北館の方の?」


ソル「そうです。昼間シスターとばったり

会った場所のすぐ近くです」


シスター「おかしいわね。その辺りは私が

ちゃんと探したのに...」


ソル「...呼びかけなかったんですか?」


シスター「っ、もちろん呼びかけたわ。

聞こえなかった?」


ソル「そうですか、遊歩道から外れて林の方

まで出ていたので気付かなかったのかも

知れません」


シスター「身体も本調子じゃないのに、

そんな遠くまで行っては危ないですよ」


ソル「はい...」


シスター「さあ、ここに。横になる前に

この聖水を」(小瓶を手渡す)


ソル「...」


シスター「ソル、どうしたんです。今日は

様子がおかしいですよ」


ソル「あ...いえ。このまま何かあったら

ルナに心配をかけさせてしまうと思って」


シスター「本当に仲が良いんですね二人は。

きっと大丈夫よ。貴方は強い子です。さあ」


ソル「...。(腹を決めて飲み干す)」


ソルM:祝福を受ける前や熱を出した時治療前

に飲まされていたのと同じ味と臭いだ。


ソル「眠く...なってき、た...」


シスター「おやすみ、可愛い天使」



𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄



ルナ「ソル大丈夫かな...昨日は帰ってこなかったし、まさかこのまま戻らないなんて...」


ソル「ただいま」(シスターと共に戻る)


ルナ「ソル!!(抱きつく)」


ソル「(頬を赤らめる)待たせちゃったね」


ルナ「本当に心配したんだから...」


ソル「この通りピンピンしてるよ」


ルナ「良かったあ」


シスター「あらあら、嬉しいのは分かりますが

過度な接触はいけませんよ」


ルナ「っ、ごめんなさい」


シスター「今回は特別に見過ごしましょう。

ここでルナに良い報告があります」


ルナ「報告?なに?」


シスター「貴方の里親が見つかったんですよ」


ルナ・ソル「!!!!!」


ルナ「ほん、とに...?」


ソル「(勢いよくルナの肩を抱く)

良かったじゃないかルナ!(耳打ち)

ここは喜んだフリをして、怪しまれないよう

いつも通りに」


ルナ「うん...私嬉しい...これでやっと憧れの

海が見られるのね」


シスター「良かったわね。私も嬉しいわ」


ソル「いつここを出るんだい?

最後になるんだから、たくさん話がしたいな」


シスター「そうね。ルナの為に新しく家を

買ったみたいだから引越しが終わり次第お迎え

に来るそうよ。今日から丁度三日後ね」


ソル「三日...」


ルナ「お家って一軒家?どんな人なの?」


シスター「幸せそうなご夫婦だったわ。

きっと直ぐに仲良くなれるでしょう」


ルナ「そっか」


ソル「寂しくなるね」


シスター「時間はまだあるわ。それまでに

ルナは日記を完成させないとね。」


ルナ「忘れてたあ」


シスター「明後日はこの寮最後の食事に

なりますから、みんなでお祝いしましょう」


ルナ・ソル「わあ(歓声をあげる)」


シスター「浮かれている場合ではありませんよ。みんなもいい人に見つけて貰えるように

沢山お勉強しないとね。さあ、今日も祈りを

捧げましょう。」


シスターM:

ああ、なんて純粋で慈悲深い若き魂。

こんな天使たちに囲まれて衰えることが出来る

なら私はどんな業(ゴウ)をも背負います。

神様、どうか今だけ、今だけでもこの哀れな

子共たちに溢れんばかりの幸福と祝福を...



𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄



ルナ「誰もいない...?」


ソル「うん、大丈夫みたいだ」


ルナ「っ(抱きつく)」


ソル「うお」


ルナ「どうしよう、里親が見つかったって...」


ソル「大丈夫。ルナは僕が守るから。

あいつらの好きにさせたりなんかしない」


ルナ「本当に、ここを出ていくの」


ソル「ああ」


ルナ「外の世界のこと、何にも知らないのに」


ソル「それでも、こんな所よりかマシさ。

そうだろ?」


ルナ「...うん」


ソル「僕がついてる。ずっと一緒にいるよ。

約束する」


ルナ「うん、ありがとう」


ソル「やっと笑った」


ルナ「へ」


ソル「ここ最近は泣き顔しか見てないような

気がしてたから」


ルナ「えへへ、そうかな」


ソル「ルナの笑った顔、素敵だよ」


ルナ「っ(頬を赤らめる)何を、いきなり」


ソル「僕はいつも通りさ」


ルナ「それで、いつにする?」


ソル「明日」


ルナ「明日?!」


ソル「昼に」


ルナ「昼?!計画は出来てるの?こういうの

って大体夜なんじゃ」


ソル「考えがある。これを見て」

(何かを書き出す)


ルナ「これは...地図?」


ソル「大体だけどね、僕のお手製さ」


ルナ「こんなものどうやって」


ソル「ルナも祝福の時、聖水を飲むだろ?」


ルナ「聖水?あの飲むと眠くなるやつ?」


ソル「ああ、あれを飲んで口を拭うフリをして

袖に吐いたんだ」


ルナ「そんなことしたら絶対不審に思われ

ちゃうよ」


ソル「そう、だから半分くらいは飲んだけど

バレやしなかったよ。正直賭けだった」


ルナ「それで...酷いことはされなかった?」


ソル「痛いことは何も。だけど凄いことが

分かったんだよ!」


ルナ「それで身体を切断されたりなんかして

叫んでたらどうするつもりだったの!」


ソル「まあまあ、話を最後まで聞いて」


ルナ「むう」


ソル「袖に吐いたにしろ少しは飲んだから、

少しの間眠ってしまったんだ」


ルナ「ほう」


ソル「それで目が覚めたら担架で運ばれてる

最中だったんだけど、どこに向かってたと

思う?」


ルナ「まさか」


ソル「そう、あの屋敷だったんだ。

それからあの不思議な扉を何度か通過してる

中で案内図らしき物を見た。それがこの図さ」


ルナ「すごい...それで、屋敷では何をされたの?」


ソル「僕にもよく分からなかったけど、

見た事もない機会で身体のあちこちを調べ

られて注射を打たれた」


ルナ「注射?!」


ソル「多分抗生物質とかそういうのだと思う」


ルナ「何それ...」


ソル「身体の悪い菌を殺すやつ」


ルナ「悪いものではないんだよね?」


ソル「実際の所は分からないけど、心無しか

傷の調子も良くなってる気がするくらい」


ルナ「ふう(ため息)それならいいんだけど...それで、なんでまた昼間っから」


ソル「昨日僕らがあの屋敷を訪れた時、殆ど

人が居なかっただろ?」


ルナ「そうね」


ソル「僕が運ばれた時は昨日よりも沢山の人

がいた」


ルナ「つまり実験とかは大体夜に行われてる

ってこと?」


ソル「流石だね。それに、昼間はシスターが

みんなのご飯を用意する時間だから僕らに

とっても都合がいい。万が一明日上手く

いかなくても明後日がある」


ルナ「すごい...本当にすごいよソル。私が

うじうじしてる間にこんな算段を」


ソル「どう、少しは僕のこと見直した?」


ルナ「見直すだなんて、ソルはずっとすごいよ!」


ソル「へへ、ありがとう。それで、僕の夢の

話だけどさ...」


ルナ「なに?」


ソル「んーん。やっぱり、ここを出られた時

にでもゆっくり話すよ」


ルナ「なあに?気になる」


ソル「それじゃ、今は大雑把だけど、この

計画を細かく突き詰めていこうか」


ルナ「えー、そんなのあんまりだよ...」



𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄



シスター「めでたし、聖寵(セイチョウ)充ち満てる

マリア、主(シュ)爾(ナンジ)と共にまします。

爾は女のうちにて祝(シュク)せられ、

又 胎内の御子(オンコ)イエズスも祝せられ給う。

天主(テンシュ)の御母(オンハハ)聖マリア、

罪人なるわれらのために、

今も臨終(リンジュウ)の時も祈り給え。

アーメン」


ルナM:

遂に...この時が来た。私達はここを出る。

本当に神様がいるなら、どうかお助け下さい。

無事、私とソルが外の世界へ飛び立てるよう...


ソルM:

神様なんて信じない。僕が、この手でルナを

守るんだ。


シスター「さあ、今日も執筆のお時間です。

思い残すことがないよう、存分に書き連ねて

ください。」


ルナ・ソル「...」


ルナM:

思い残すことなんて、何も無い

私にはソルがいる

里親が見つからなくたって海は見られる


ソルM:

ここを出たら、ルナに思いを伝えよう

もう僕らを縛るものなど何も無いのだから


シスター「そこまで。前から順にここへ」


ルナ「ふぅ」


シスター「あら、今日はよく筆が進んだ

のね、ルナ」


ルナ「自分でもびっくりなくらい」


シスター「それはいい事ですね、完成したら

新しいご両親にも読んで貰いましょうか。

貴方の集大成を」


ルナ「新しいパパママよりも、シスターに

読んでもらいたいな」


シスター「あら、私ですか」


ルナ「翼を持たずに生まれた天使のお話」


シスター「それは面白そうですね。後で

ゆっくり読ませて貰うわ。貴方が書いたん

だもの。きっと素敵ね」


ルナ「ありがとうございますシスター」


シスター「さあ、みんなよく頑張りました。

昼休みの時間に致しましょう。昼食の時間

までにはちゃんと寮に戻るのよ」


ルナ・ソル「はーい」


ソル「行こう、ルナ」


ルナ「うん」



𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄



ソル「逃走経路は、ちゃんと覚えてるね」


ルナ「うん、ばっちりだよ」


ソル「屋敷に入ったら?」


ルナ「一言も喋らない」


ソル「お互い緊急の用が出来た時は?」


ルナ「合図しあってから」


ソル「僕の指示は」


ルナ「絶対!」


ソル「よし、僕が先導するから」


ルナ「後方の確認!(食い気味)」


ソル「(苦笑)大丈夫そうだね」


ルナ「もちろんだよ」


ソル「怖い?」


ルナ「...ううん。次の祝福のお告げに比べ

たらこんなの、全然」


ソル「ふふ、そうだね」


ルナ「ここを出たらさ...」


ソル「?」


ルナ「海に行って、そこで音楽を聞いて、

二人の夢いっぺんに叶えたいな」


ソル「いいねそれ、賛成」


ルナ「決まりね」


ソル「うん、約束」


ルナ「約束!指切りげんまん嘘ついたら針

千本のーます、指切った!」


ソル「それじゃ、行こうか」


ルナ「うん、行こう」

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三人台本/天使の子供たち(女2:男1) 無呼吸 @0591122

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