第四話 教育こそ平和の神髄

 過去の海外の植民地計画から逃れられた最大の要因は、教育水準の高さだ。

江戸時代、欧米人を驚愕させたのは当時、世界一と言われた日本の識字率の高さだ。武士においてはほぼ100%、全国平均で約60%とされている。江戸の子供たちは良い奉公先を目指し寺子屋で読み書きや演算を学んでいた。教養の高い民衆が暮らす国は、仮に武力で植民地化しても民衆の反乱が起こる可能性が高く、政策の真意を問われ浸透せず、維持が難しい。ペリー提督日本遠征記には「日本では読み書きが普及していて、見聞を得ることに熱心だ。教育は日本全土に普及しており、清国の女性とは異なり、日本の女性は男性と同様に知的な発展に参加し、しばしば母国の文学にも精通している」と。また、1860年に来日したプロイセン海軍のラインホルト・ヴェルナー艦長もエルベ号幕末期の中で「日本はぼろをまとった肉体労働者でも読み書きができることで我々を驚かす。世界中どこを探しても日本のような民衆を目にすることはできない」と記している。

 識字率の高さは伝達機能の高さや発想力の豊かさを得て、インフラ整備がなされた日本独特の文化が開花している。

 江戸時代になると宣教師による布教が進み危機感を覚えた江戸幕府は日本人の海外渡航規制による鎖国体制を取ったが1853年にアメリカ合衆国インド艦隊、通称黒船が来航して終了した。不平等条約を結ばされた時点で米国に見下されていたが、いきなり開国して国内が混乱し他国に付け入る隙を与える可能性は低くなかった。幕府はペリーと冷静かつ対等に交渉を行っていた。決して弱腰ではなかった。鎖国中も幕府は海外の情報収集に勤しんでいた。当時の米国の人口は日本の半分ほどの新興国だった。南北戦争で内部も安定していなかった。ペリー来航時は鎖国政策が緩まりつつあった時期だった。

 米国との交渉は、強国の露西亜やイギリスに比べて交渉しやすい相手だった。不平等と映るのは、米国の目新しい軍事力に慎重になっていのに過ぎない。ペリーが幕府に突きつけた選択肢は服従か徹底抗戦だけだった。抗戦を選べば敗北し植民地にされていた可能性もあった。それは隣国の清がイギリスに敗北した経緯が参考になっていた。イギリスは清との貿易を優位に進めたかったが現在の中国相手に貿易赤字を出しているように思惑は芳しくなく、イギリスは禁止されていたアヘンを密輸出し始めた。これにより清はアヘン中毒者が激増し、対抗処置として徹底抗戦に変じた。これがアヘン戦争であり清は敗北した。清は港の開放と莫大な賠償金を担った。

 抗戦のリスクをここで学んでいた幕府は相手の意を飲み、交渉によって自国の不利益を回避する道を選んだ。教養の成せる業だ。無理難題に対し幕府は「貿易に関する条件は国法で禁止されているため飲めない」と毅然と対応した。ペリーの脅しにも「事実と異なる戦争勃発の理由にも条件を飲む理由にならない」と対応。避けるべき危険は避け、譲歩を甘んじて飲むことで最悪な状況を回避した。国内の混乱で内戦が激化すれば相手に付け入る隙を生じさせる。それを回避させたのが大政奉還だ。内戦・国内混乱に付け入るのは植民地計画の常套手段。討幕派の薩摩藩・長州藩の後ろにはイギリスが、幕府の後ろにはフランスがいた。ぶつかれば日本は、イギリスかフランスの植民地になる可能性があった。当時、幕府の権威は失墜していた。これを機に取られた英断が大政奉還だ。内戦を防止し、異国との交渉を熟知していたことが功を奏した結果を齎した。

 秀吉が朝鮮出兵を行ったのもスペインからの宣教師による日本植民地計画を牽制するものであった。秀吉はスペインに対し、「清の次はお前たちだ」と圧力をかけていたのではと近年では推察される説もある。

 狭い世界での自らの戦力を過信せず、状況を判断できたのも情報収集と知恵が備わっていたからだ。

 宣教師を国に多く入れたことで植民地化の危機に陥った。現在日本も労働力不足を建前に移民を多く受け入れる道を突き進んでいる。高度成長期と呼ばれた時代よりは人口は多いのにも関わらず。少数精鋭を実行できるのも日本の姿だ。宣教師が乗り込み暴動や軍事攻撃をする口実を作るため行動に移していたように、他国の者に対する人権や権利を口実に日本の制度を弱体化させては他者に自国を牛耳られる機会を与えるようなものだ。外国人参政権や土地取得を安易に許すことは国家破壊につながる行為だと先人にの危惧を改めて噛み締める時代でもある。

 ユニセフの活動は崇高だ。しかし、元凶を絶たなければ解決しない。医療を受けられることは、教育を学んでこそ、を軸に展開しなければ、自分たちで立ち上がる方法や医師が生まれず、永遠に援助を受ける側になる。知能の育成は、人命を重視するうえで最も大切だと言える。



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