5.走れメロス 太宰治 ―ツッコミどころ満載!命懸けトライアスロン

 「メロスは激怒した。」

そう、メロスは激怒したのだ。そして迷いなく邪智暴虐のディオニス王の殺害に向かった。買い物のついでに、だ。皆さんはこれほどブチギレたことはあるだろうか。もしくは、これほどまで怒りのみに支配された人間を見たことがあるだろうか。

 それだけではない。メロスは王の邪智暴虐の行き届かぬ田舎の男にも関わらず、たまたま訪れた都市の民のために激怒した。もはや身の程知らずというか、市民からすればいい迷惑だ。

 誰もが知る名作「走れメロス」はこのような、冷静に考えれば狂気的な冒頭から始まる。見知らぬ誰かのために、本気で怒り狂うことができるアツくおおらかな男。


メロスはいわば、誰よりも主人公してる愛すべき主人公なのだ。


そしてこれこそがこの作品の魅力だと投稿主は思う。これはまさに太宰の突き抜けた才能ゆえのこととしか言えないが、我々読者はメロスとともにディオニス暴虐っぷりを嫌と言うほど痛感し、シラクスの街の惨状を嘆くように仕向けられる。しかし相手は暴君ディオニス王。読者諸君も、街の市民にもどうすることもできない無力感が漂う。


そこに我らがメロスがぶっ飛んだ正義感を懐に忍ばせて現れ、嘆く我々の前を通り過ぎて悠々と王宮に踏み込んでゆくのだ!買い物袋を背負ったまま!


我々からすれば、心配もあるがやはり「かっこいい!」が勝つ。ただ、見送った直後に警備兵に連行される姿を目撃するのだが…。


 このあとも、メロスはアツく頼りがいのある選択をしては人間味あふれる失敗をしていく。寝過ごすし、余裕をこいて歩くし、疲れて寝る。これは投稿主がずっと友達におすすめし続けていることだが、一度ツッコミを入れまくりながらこの物語を読んでみて欲しい。ツッコむとかなり面白い話だと気づく。誰かと読むとさらに盛り上がる。

 さて、最後は市民みんなの前で友情を確かめ合い、暴虐の王を改心させ、友人関係を築くほどのただまっすぐな正義を見せつけたあと、それで終わりかと思いきや、ずっとメロスは裸同然だった、と発覚して舞台は閉幕する。

 最後の最後までメロスは冒頭から全くブレず、「メロス」のままでいるのだ。主人公が様々な経験を通して成長し、変わっていく物語は世の中に数多あれど、主人公が「自分を貫く」物語はあまり見ない。正直で、正義感があって、少しバカなところもあるメロス。メロスはメロスのままシラクサの街とその王を誰も傷つけずに救いきったのだ。これはものすごいことだと投稿主は思うのだが、どうだろうか。


 最後にもう一度おすすめしよう。どうか一度「ツッコミメロス」をやってみて欲しい。そうすれば読了後は「こんな友だちが欲しい!」と誰もが思うことだろう。

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