3.屋上のテロリスト 知念実希人 ―圧倒的衝撃が日本を包み込む

世界観、結末、構想、あらゆるものが衝撃だった。

 ポツダム宣言を受諾せず、新たに新潟に原爆が落とされ東は社会主義、西は資本主義と日本が分裂した終戦から70年後、西日本。彰人はひょんなことから学校の屋上で出会った少女、佐々木沙希の壮大なテロ計画に巻き込まれていく。

 おそらく紙なんかに書いて全体をまとめると、かなり複雑な物語であることがわかるだろう。職業、国籍様々な多くの登場人物が現れては沙希の計画に絡み合っていく。敵だと思っていた存在が実は沙希の傘下にあったり、いっとき出てきた人物が後に最重要級の人物だったりと人物の関係性が忙しい。しかしそれでもってほとんど引っかかるところなく読み進められたのはやはり作者の構想力と筆力によるものだろう。

 我々読者は主人公、彰人と同じような立場で物語を見る。つまり、何も知らない第三者として巻き込まれていく。民間企業、スパイ、武器商人、軍人、政府と、どんどん事が思っていたよりも壮大であったことに気づいていき、知っている情報から全貌を把握しようとして、ことごとくそれが覆される様子は爽快だ。

 ハイテンポに繰り出されるテロ計画の新情報は読者を全く飽きさせることがない。グダグダするところもなく、スッキリしていて読みやすい。この本では複数の物語が同時並行的に進行しており、次第に同じとき、同じ場へとすべての物語が集約する。そこにすべての答えが待っていて、そこにたどり着く頃には沙希は既にその向こうに進んでいる。そこには綿密な計画があり、若いエネルギーに満ち溢れている。

 それなりに熟読したつもりだったのに、どれが伏線になっていたか把握しきれていない。すべて伏線だったかもしれない。探偵モノでもないのに、この伏線の密度。物語を書きたいというときにも教科書的な役割をしてくれそうだ。

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