ジキルとハイド

鐸木

第1話

いつかの夢の話。

私は、夕陽が差し込む何処かの教室に立っていた。ずらりと並ぶ机と椅子の群れの中に、一人の少女が居た。ぽつり、という擬音がこんなにも当て嵌まる事があるだろうかという程、少女の存在は際立っていたし、周囲は静寂を極めていた。少女はこの不可思議な空間を疑わずに、ゆったりと椅子に腰掛けている。窓ばかり見ているので顔の造形はよく見えないが、シルエットと佇まいで少女が美しい容姿をしている事が分かった。

「何突っ立ってんの」

こちらを振り向いた。怪訝そうな目つきをしているが、何処か優しさを感じる。声色も低いけれど、悪人になりきれていない。私は曖昧に頷き、少女の隣の席に座った。少女は隣に座られた事に少し苛立った様だが、少しするとまた窓をじっと見つめはじめた。怒られない様、恐る恐る隣を見遣る。微かに揺れる髪、一本一本が派手な金色に染まっていて、夕焼けの風景に溶けていた。少女の見た目は派手であったが、何故か奥ゆかしさを感じる。

私と少女はまるっきり正反対の容姿をしていた。いや、容姿だけではない。数々の所作から感じる人格からも、私とは正反対であると感じさせられた。

「ハイド…」

無駄に甲高い声が教室に響く。少女は振り向きもしない。ただ、その背中は少し寂しそうだった。




あくる日の朝、目覚めた少女の心には心臓が亡くなった様な喪失感があった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ジキルとハイド 鐸木 @mimizukukawaii

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る