エイプリルフールは関係なく(物理)
石動 朔
少なくとも俺はそれをマジだとは思えなかった
宇宙人と出会ってから夜にこの河川敷通るのが日課になり始めたこの頃、俺は指定された菓子を持っていつもの場所に立っていた。
今朝の話である。リビングに置いていたスマホが揺れ、会社関係かと憂鬱になりながらもメッセージを開いてみると、そこには挨拶以来の宇宙人からの文面が送られていた。
『ももいろのおんながふたりたっているおかしをかってほしい。きょうじゅうに。』
あまりにも無茶なお願いを無視することは当然できたはずだ。
しかし俺はどうにも人のお願いを断りきれない性格で、それ抜きに考えたとしてもUFOから出るビームを間近で見ていた俺は既読スルーをする勇気などありはしなかった。
そのお菓子とやらは母の真似事だが、良く何かのお礼で渡したりする時に買うものだった。
販売開始から数分で売り切れるこの人気商品がタイミングを誤るとショーケースが空になることは百も承知だ。だからこそ俺はいつもより早く仕事を終わらせ、割と早い順番に並ぶことができたおかげでしっかりと8個入りを買うことができた。
「ほら、例のブツだぞ。気に入ったか?」
相変わらず非現実的に浮遊している物体は、袋から個包装のお菓子を2.3個まばらに取り出し(ふよふよ浮き上がり)、ややあってからスマホに通知が来る。
『まじうまい』
“なるはや”なり“まじ”なり、この宇宙人はどこでそんな言葉を仕入れているのだろうか。
『ならよかったよ』
そう俺もぶっきらぼうに返す。まぁ、おいしいって思ってくれたのなら良いか。
すると閉じたスマホがもう一度震えた。相変わらず、UFOはなんの反応を示さずにただただ浮いてる。
俺はやれやれと呟きながらそのトーク画面を開いた。しかし、その内容に俺は目を見張った。
『よかった。これでこんどりょうしんにあいさついくときわたせる。』
へ?と俺が間抜けな顔をしていると追加でメッセージが送信される。
『こんど、わたしのりょうしんにあいさついくでしょ』
まさか、いや、今日は4月1日だ。そのくらいこの宇宙人は。
『えいぷりるふーるはごぜんまでだよ』
当然の如く放たれた言葉に、俺は開いた口が塞がらなかった。
...どうやら俺は相当ヤバいことに巻き込まれているのかもしれないと、今更考えても無駄なことが頭の中でいっぱいになっている。
UFOはしばらく俺を照らし、やがてなにも言わず遥か彼方へ去っていった。
エイプリルフールは関係なく(物理) 石動 朔 @sunameri3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます