四月真実

4月2日の話

 嘘をついていい日があるのに逆がないのはなんかバランス悪いよね。

 名前だけ少し聞いたことのあるインフルエンサーがそんなことを言ったのを皮切りに、四月二日は本当のことを言う日になったそうだ。


「それ普通じゃないの?」


 そう返すと、「杓子定規め~」と笑われた。

 笑ったんだと思う。語尾に(笑)ってあったし。

 メッセージアプリでのやり取りは感情の読み取りが難しい。

 一方で彼女はかなり手馴れている。国語では赤点を取っていたのに……。


「私たちって思ってる以上に本当のこと言えてないんだよね。

 シンジくんはお母さんにいつもありがとうって言ってる?」


 毎晩彼女のマシンガントークの餌食になることは既に日課になっていたが、今夜は少しキレが悪かった。

 というのもWiFiの調子が悪いとかで、メッセージを送るのに難儀しているらしい。

 不満たらたらな彼女には悪いが、僕にとってはこのくらいの速度がちょうどいい。返す側としては気が楽だ。


「母の日にはちゃんと言ってるよ」

「え~偉い」

「ちょっと馬鹿にしてる?」

「ごめん笑」


 謝るなら図星じゃないか。


「まあ他にも色々あるの! 家族以外にもお世話になってる人にお礼したり、『私実は○○なんです』みたいな投稿したり、去年はそんな感じのがバズったんだよね」

「昨日のアレ嘘でした、とか?」

「それもあったね。二日になってからすぐ謝罪するやつ」

「あれ、でもその日のうちにネタばらししなきゃいけないみたいなルールがあったような……」

「みんなそこまで気にしてないよ~。シンジくんはエイプリルフールについた嘘は叶わない、とか本気で信じるタイプ?」


 どうだろうか。ジンクスは割と意識してしまう方なのかもしれない。

 目を擦って画面の左上に目線を動かすと、もうすぐ日付が変わろうとしていた。


「そうかも。

 じゃあ夜も遅いし僕はここで」

「え!?!?!?!?!?!?!?」

「記号やかましすぎて電話かと思うくらいうるさかったよ。なに?」

「それがシンジくんの嘘?」

「じゃあそういうことにしておくよ」

「私今日まだ何も嘘ついてないんだよねー」

「うん」

「ついていい?」

「良いけど予告したら意味なくない?」

「杓子定規!」


 そして彼女からのメッセージは途絶えた。

 今更ながら小粋なジョークでも考えているんだろうか。明日はもう秒読みとまでは言わずとも、分読みの段階なのだけれど。

 それか通信状態が落ちるところまで落ちてメッセージが送れなくなったとか?


「……いや」


 うめき声のような音が口から洩れる。

 をしたに違いない。大して楽しみにもしていないが、予告された嘘が中々やって来ないことに何となく、しかもけっこうモヤモヤしてしまう僕の性格まで織り込み済みで、今頃本人はさっさと寝てしまっている可能性がある。


 一度そう考えるとその気しかしなくなってきた。実際かなりモヤモヤしている。

 来るなら早く来い。そう思っているうちにとうとう二日になってしまった。


 タイムオーバー。または嵌められた。少し残念に思っている自分がいるのが彼女の思う壷のようで小憎たらしい。

 ちょっと乱暴にスマホを放り投げてベッドで横になる。明日学校で詰めてやろう。



 翌朝、スマホに通知が来ていたので見てみると、「カレイはルーとライスをかき混ぜたカレーみたいな見た目だからカレイだって話、嘘だからヨロ」、「ヤモリは夜中寝ている人の口の中に入ってるって話、嘘だからヨロ(ちなクモは入ってる)」という何がヨロなのか全く分からないしネタばらしに乗じてとんでもない豆爆弾知識(名前に反してダイナマイトに匹敵する)を叩き込んできた友人からのメッセージの下に、彼女からのものもあった。


「昨夜の最後のメッセージ送れてなかったみたい、ごめん! もう再送信したよ!」


 手を合わせる絵文字と共にそんな文言が。さすがにアレは邪推だっただろうか。

 というかわざわざ嘘を再送信するってやけに律儀だな……と思いながら彼女とのトーク履歴を開くと、さっきの爆弾なんて比じゃない発言が飛び出してきた。


「わたしね」

「シンジくんのこと好きだよ」


 ……どっちだ?

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四月真実 @Ren0751

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