フェイク ライク ソング

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フェイク ライク ソング


私は歌う。


AIの作った曲に。

AIの作った歌詞で。

AIの演奏に併せて。


ふふ。まるでボーカロイドみたい。


「え、萎えない?」

「え、なんで?」

私の疑問に、それこそ意外そうに友人が驚く。

「なんでって……うーん、そう言われると困るけど。

でも作ったのが人じゃないってだけでノれないじゃん?」

「そうなの?私、結構平気だけどな。いい曲は、やっぱいい曲でしょ?」

そもそも私の好きな曲を作ったアーティストがどんな人なのか、私はよく知らない。会った事ないし。


「AIで作った曲がダメな理由って?」

友人の視線は上空を彷徨って、やがて私の顔に着地する。

「ん-とね、血肉が通ってない感じがする。背景での作り手の苦悩や生き方や思想や、そんな紆余曲折がないから感情移入できない。

今思うとね、ボカロ曲が成立してたのって、歌い手が人でなくても作詞・作曲が人だったから心が乗ってたんだと思うよ。

全部が人でなかったら、そんなの……からっきし噓じゃん。いるんだよ、やっぱりハートがさ?」

あ、BGMにはいいかもだけどと、友人は付け足した。


「そっかー、じゃあ問題ないよね」

「そうなの?」


「だって、唄っているのは私だもの」


タンッ。

「ほい、アップ。今日も良い出来、結果が楽しみ~♪」

私は小気味良くENTERキーをタップすると、画面を見ながらニヤニヤしていた。

作詞も作曲も出来ない私が、こうして歌い手として動画を配信出来てるのはAIのおかげだ。

今回も、良い曲と巡り会えた。

もちろん、毎回良い曲ばかりじゃない。むしろダメな曲ばかりだ。

意味が不明な曲。歌詞が支離滅裂な曲。内容は良くても人が歌えるように出来てない曲。

そんなのばかりだ。

でも、ガチャを回すようなものだ。

ひたすら、次の曲次の曲を作って貰ってアガリを審美する。

すぐ出来て、疲労を知らないってのは、やっぱり美徳だね。トライ&エラーがお試し放題。

そうすると、あら不思議。数百曲ぐらいのうち一つぐらいは名曲があるんだ、これが。

「ま、確認する方が時間を取られるんだけどね」

この曲も玉石混交の中から丁寧に石を取り除いて見つけた一つ。


『fake like song』


意訳すると『大好きだよ!ライクの方だけどね!』ってタダそれだけの曲。

でも私が歌うには、それで十分な曲。


嘘で塗り固めた私が歌う本音の曲。


失う事を恐れて、偽りの友人を演じ続ける臆病者の熱い曲。


たぶんね、誰が何が作ろうが関係ないんだ。私が共感出来たらそれで十分で、それだけできっと器に心は満たされてる。

私が感情移入できてるうちは無機質な音の羅列にも心が満たされてるんだ。それが伝わってるんだ、と、信じたい。

だから、みんな聞いてくれてるんだと信じたい。

私の歌から何かが伝わって、近い感情を共有できてるじゃないかという幻想を信じたい。


「……ああ言ってたけど、彼女も私の曲、聞いててくれてるかな?」


ラブソングは歌えないけれど、ささやかに好きだと伝えたい偽装と粉飾をまぶした甘い歌。

届けたい相手にはなかなか伝わらないのが、難点と言えば難点。


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